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須原 敦
国際NGOにて、主にネパールでの教育・医療分野の開発援助事業や緊急支援・復興支援事業に携わったのち、2015年にアイ・シー・ネットに入社。研修の企画運営や講師を多く務めており、国外からの研修員を日本で受け入れる事業には10年前から携わっている。
メキシコに出張した際、驚いたことのひとつが食べ物。首都のメキシコシティのほか、中部のベラクルス州、東部のキンタナ・ロー州などを訪問しましたが、どこに行っても主食はトウモロコシ。一週間ほどの短い滞在期間だったこともあってか、パンやご飯など、ほかの主食はほとんど見ませんでした。とはいえ、トウモロコシが日本人に馴染みのある「粒」の状態で出てくることはほぼなく、さまざまな形に姿を変えて提供されました。私たち日本人が「タコス」とよんでいる料理は、実は調理法によって細かくよび名が違うということにも気づかされました。
日本から遠いメキシコですが、地理的な事情から地震やサイクロンによる風水害、火山噴火、森林火災など日本と同様の自然災害のリスクがあります。こうした自然災害に対応するため、アイ・シー・ネットでは過去10年にわたり、10名以上のメキシコ人研修員を受け入れてきました。
日本での研修では、ジェンダーと多様性の視点をもった災害リスク削減や気候変動をメインテーマとして、2011年の東日本大震災の影響が大きかった宮城県や岩手県の各地で現地の方から講義を受けたり、被災地の復興の様子の視察を行いました。
研修を終えて帰国した研修員が今、どのような活動をしているのかを調べるのが今回の訪問の目的です。この研修の参加者を対象とした海外での調査は初めてで、私にとっては約10年ぶりのメキシコ訪問となりました。
現地滞在中の楽しみのひとつが食事。日本とは全く異なる現地の味を実際に体験することでその国の歴史背景や農業事情、国民性を垣間見ることができます。
メキシコの代表的な料理といえば「タコス」です。タコスに使われるトルティーヤはおもにトウモロコシから作られており、トウモロコシは古くからメキシコの食文化を支えてきた主食といえます。
しかし、レストランでいざタコスを頼もうとすると、ちょっと戸惑ってしまいます。というのも、タコスにはさまざまなスタイルがあり、主食であるトルティーヤに何を添えるか、どう調理するか、どんなソースをかけるかによって、メニュー名が変わるからです。
まずは、典型的なタコスです。
焼いたトルティーヤにお肉や新鮮な野菜、アボカドのソースをのせてフレッシュライムを絞っていただきます。トルティーヤ生地を持ち上げて食べるのが難しいぐらいのボリュームの具材がのっているため、ナイフとフォークで切り分けながら食べます。アボカドやトマトのソースがとてもよくマッチし、濃い目の味付けの肉を食べていても口当たりは意外とさっぱりしています。
次に、パリパリに揚げたトルティーヤで具材を挟んだタイプのトスターダです。
なかの具材は何でもありのようですが、新鮮な魚介類が食べられる地域だったため、ズバリ「エビとタコのトスターダ」というメニュー名の料理をオーダーしました。エビもタコも、せいぜいふた切れぐらいずつ入っていればいいかな、と思っていたところ、予想はいい意味で裏切られました。クルマエビのようなサイズのエビが5本以上、タコのブツ切りも同じぐらい入っていて、これひと皿でお腹いっぱいでした。メキシコのレストラン、恐るべしです。ここでもハーブやアボカド、ライムなどが絞ってあり、新鮮なシーフードトルティーヤとの相性は抜群。ライムの酸味で食が進みました。
トルティーヤはおなじみの黄色いトウモロコシから作られたものだけではありません。こちらは少し珍しい、青トウモロコシのトルティーヤを焼いたケサディージャという料理。
チーズやハム、レタスなどがサンドされています。焼いてある割に生地は柔らかく、普通のトルティーヤよりも少し香ばしい感じでした。あとで調べたところ、この青トウモロコシのトルティーヤを使った料理はメキシコシティを含む中央メキシコ地域における特徴的な食材のひとつだったようで、メキシコのトウモロコシ文化の一端を感じられる料理を、そうとは知らずにオーダーして楽しむことができました。
マヤ民族が住む地域では朝食にエンパナーダとよばれる軽食をいただきました。
今までに紹介したトルティーヤに比べ、生地がかなり厚めなのがマヤ文化圏特有のスタイルです。この生地を軽く焼いて横に切り、なかにフレッシュチーズや野菜を入れたものです。イメージ的にはイングリッシュマフィンに近いですが、マフィンよりも生地が重い感じです。
地元の方々にとっては「軽食」らしいのですが、生地がしっかりしているのでふたつ、食べただけで満腹になりました。これまでにご紹介した具材たっぷりの料理に比べると質素に見えますが、なかのチーズや野菜が素朴ながらしっかりとした味わいがあり、地元ならではのおいしい料理に出合えました。
最後に、さらに変わり種のエンチラーダというスープ料理。巻いて揚げたトルティーヤをトマトソースのなかに入れ、レタス、フレッシュチーズ、紫玉ねぎなどを乗せたところにサワークリームがかかっています。主食と具材が一緒になった、食べるスープです。
丸めて揚げただけで、普通のトルティーヤとは全く違う食感に変化するのがおもしろいところ。筒状に巻かれたトルティーヤのなかには具材が入っていないため、フォークでバリバリと崩しながらソースと絡めていただくのですが、例えるなら、固めの生地のラザニアを食べているような感じです。
メキシコでは通常、朝、昼、夕のうちで一番しっかり食べるのが昼食とのことで、このメニューもランチにいただきました。しかし、一般的な日本人にはややボリュームが多すぎたようで、この日は21時ぐらいになってもまだお腹が空かずに困りました。トウモロコシ料理はかなり腹持ちが良いようです。
このように、調理法によってトルティーヤを使った料理のよび名はさまざまですが、多くに共通するのがソースで味変できることです。
サルサソースやアボカドを使ったソースなどがあり、自分の好きな味にアレンジできます。時折、見た目から想像できないぐらい辛いソースもあるので要注意です。
毎食、いろいろな形に姿を変えたトルティーヤを使った料理に触れるうち、どうしてメキシコではこんなにもトウモロコシが使われ、毎日の食卓に欠かせないものになったのかが気になってきました。もちろん、この土地に昔から根付いていた、主食として栽培や加工がしやすかった、品種改良がうまくいった、などの理由もあると思いますが、古代マヤ文明の文化を継承している団体の方々と話をするうちに、その疑問の答えが少し見えたような気がしました。
トルティーヤを使い、主食として食べるものをおもに紹介しましたが、今回初めて経験したのがトウモロコシを使った飲み物です。コーンスープのようなとろりとした食感のものを想像される方も多いかもしれませんが、私が飲んだのは「アトレ」とよばれる、さらっとした口当たりで、トウモロコシのほのかな甘さが感じられる、素朴な味の温かいスープでした。
これも先ほど紹介したエンパナーダと同じくマヤの聖地でいただきましたが、お茶代わりに飲むほか、儀式のお供え物としても使うそうです。実際、この時は聖地にお供えをしたうえで、参加者みんなでアトレを飲みながらの朝食でした。
マヤ文化の継承活動をしている方に聞いたところ、マヤ民族の神話のひとつであるポポル・ヴフには、“人間はトウモロコシから作られた”という記述があるそうです。彼らにとって、トウモロコシは単なる食料、食材という域を超え、人間そのもの、人の命の源としてなくてはならない神聖な存在として大事に扱われていることが分かりました。
日本人はお米をよく食べますし、お米を使った飲み物となると日本酒や甘酒が真っ先に思い浮かびますが、アトレほど子どもから年配の方までが楽しめる常用の飲み物に加工することはあまりありません。また、人間がお米からできている、と考えることも、おそらくあまりないのではないかと思います。こう考えると、メキシコでのトウモロコシが持つ意味や重要性は、私たちがお米に対して抱く考え方とはかなり違うように思いました。
今回、ご紹介したほかにもトウモロコシを材料にした料理はまだまだあるようです。今回の私のメキシコ出張で出合えた料理は、おそらくほんの一部。訪問しなかった北部や南部に行けば、また違うスタイルのトウモロコシ料理があるはずです。いつかまた、違う姿に形を変えたトウモロコシを堪能したいと思っています。
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