【前編】9月11日公開!地球の歩き方的『オデュッセイア』ガイド~旅の基礎知識~
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「地球の歩き方的『オデュッセイア』ガイド~前編~旅の基礎知識~」で旅支度を終えたら、いよいよ映画の世界へ出発!全世界興行収入2億6,406万ドル(約427億円※1)を記録し、本年度実写映画No.1※2の大ヒットとなっている本作。後編では、クリストファー・ノーラン監督が壮大なる帰還の旅と冒険をどのような映像で描き出したのか、映画ならではの見どころを紹介。さらに、スクリーンを彩った絶景ロケ地も巡りながら、『オデュッセイア』の旅をより深く味わいます。
※1 1ドル162円換算 7月20日時点 ※2 Box Office Mojo調べ
※本表紙は、WEB記事限定企画となります
2800年以上にわたり語り継がれてきた『オデュッセイア』。数々の冒険譚が描かれるこの古典を、クリストファー・ノーラン監督は現代最高峰の映像技術と徹底したリアリティへのこだわりによって再構築しました。目指したのは、古代ギリシャ神話の世界を単に再現するのではなく、観客がその世界に入り込むような映画体験を生み出すこと。本作では、誰もが知る神話の名場面が、まるでその場にいるかのような圧倒的な没入感で描かれています。ここでは、そのなかでも注目したい6つの見どころをご紹介します。
誰もが知るトロイの木馬。その象徴的な姿を、本作では単なる巨大な木馬として描いてはいません。ノーラン監督がこだわったのは、敵を欺く作戦として成立する「説得力」です。海に浮かぶ巨木、あるいは壊れかけた船の骨組みのようなデザインは、アテナへの供物に見せかけてトロイへ運び込むという戦略に現実味を与えています。さらに本作では、木馬が敵国へ受け入れられるまでの過程や、その内部に身を潜める兵士たちが味わう極限の緊張と苦痛までていねいに描写。誰もが知る「伝説」の裏側に、人間の肉体と精神が耐え抜いた壮絶な時間があったことを実感させます。
※旅メモ:撮影では、実在の土地に巨大なトロイの街を建設し、夜の攻略シーンのために炎の揺らぎを再現する専用照明装置「ハイペリオン」も開発。神話を現実の出来事として体感させる、ノーランならではのアプローチに注目です。
巨大な一つ目巨人キュクロプスとの対決は、本作屈指の迫力を誇るシーンです。撮影には、ギリシャ・ペロポネソス半島に実在する「ネストルの洞窟」を使用(※詳細は後述の「あの風景に会いに行こう!」にて)。吹き抜け構造をもつ巨大な洞窟をそのまま生かすことで、神話の世界に本当に迷い込んだかのようなリアリティを生み出しています。
人間を獣へと変える魔法を操る魔女キルケ。その神話的な設定は、本作でさらに強烈な映像表現として描かれます。変身の瞬間に描かれるおぞましさは、ノーラン監督ならではのリアリティへのこだわりを感じさせます。一方で、本作ではキルケは単なる怪物的な存在ではなく、彼女自身の葛藤や背景にも光を当てています。演じるサマンサ・モートンは「キルケは女性に対する誤解や悪者扱いを表している存在」と語り、「兵士たちの振る舞いに対する彼女の反応には、強く共感できる部分がある」とコメント。恐怖だけでは終わらない、現代にも通じる人物像にも注目を。
島々を巡り故郷を目指すオデュッセイアの旅は海にも試練がいっぱい!なかでも美しい歌声で船乗りを惑わせるセイレーンとカリュブディスの渦の、次々と災難が襲いかかるシーンはとてもスリリングです。ノーランが幼少期から記憶に残る幻想的な存在として挙げるこのエピソード。視覚だけでなく、音や自然が生み出す緊張感にも注目したいところです。
※旅メモ:航海シーンでは、キャスト自身が実際に櫂を漕ぎ、帆を操る訓練を重ねて撮影。荒れ狂う海や風雨といった自然条件も取り込み、古代の人々が海を「神々の力」と捉えた世界観を体感できる映像に仕上げています。
激しい冒険が続く物語のなかで、カリュプソとのエピソードは印象的な余白となります。長い航海と数々の試練が続くオデュッセウスの旅。その中でカリュプソとの時間は、戦いや逃走とは異なる静かなひとときとして描かれます。英雄である前に、一人の人間として揺れ動くオデュッセウスの姿にも注目を。
『オデュッセイア』が描くのは、怪物を倒す英雄譚だけではありません。長い旅を経て、故郷へ戻る「帰還(ノストス)」の物語でもあります。試練の先でオデュッセウスが何を失い、何を取り戻すのか。本作が描く壮大な冒険の果てにある人間ドラマにもぜひ注目してください。そんな物語のクライマックスを彩るのが、イタケ島の宮殿。原作を読んだ人なら誰もが思い浮かべる王妃ペネロペの機織りの間や、宮殿の大広間に並べられた斧、そしてオデュッセウスの弓…。ホメロスが描いた活字の世界が、手で触れられそうな実在感をもつ空間として目の前によみがえります。原作ファンにとっては、長年思い描いてきた世界を「目撃する」感動を味わえるはず!
本作では、神話の世界を「本当に存在する場所」として描くために、ノーラン監督は実在の風景を積極的に取り入れました。ギリシャ、イタリア、モロッコ、アイスランドなど世界6ヵ国でロケーション撮影を敢行。神話の舞台をそのまま再現するのではなく、壮大な自然や歴史ある建造物を生かすことで、古代ギリシャの世界に圧倒的なリアリティを与えています。なかでも特に印象的な4つの場所を紹介しましょう。
モロッコ西部、大西洋に面した港町エッサウィラの海岸は、トロイの木馬が発見される場面や、オデュッセウスがトロイを後にして旅立つ重要なシーンの舞台となりました。撮影では、海岸に約1万㎡を超える巨大なトロイの街のセットを建設し、高さ約10mのトロイの木馬を波打ち際に配置。強い海風と荒々しい波が打ち寄せる実際の海岸で撮影することで、神話の世界に圧倒的なリアリティを与えています。
ノーラン監督は、オデュッセウスが実在したとされる地中海沿岸だけにロケ地を限定せず、「未知の土地へ旅する感覚」を表現できる場所を選びました。CGでは再現できない風や波、自然の厳しさを映し出すことで、古代の人々が自然を神々の意思として受け止めていた世界観までもスクリーンに映し出しています。
イタリア・シチリア自治州にあるファヴィニャーナ島は、オデュッセウスが帰還を目指す故郷イタケ島として登場します。撮影に使われたのは、海抜約340mの岩山サンタ・カテリーナ山の山頂に建つサンタ・カテリーナ城。15世紀に建てられた歴史的要塞です。そこへ続く道はなく、機材や物資の搬入も困難な場所でしたが、ノーラン監督は360度に広がる海の景色に「オデュッセウスの故郷」を感じ、この場所を選びました。キャストやスタッフは撮影期間中、毎日徒歩で山を登って現場へ向かうという過酷な環境に挑戦。その不便ささえも、物語のリアリティにつながっています。
ギリシャ・ペロポネソス半島にあるネストルの洞窟は、オデュッセウスと一つ目の巨人キュクロプスが遭遇する場面の舞台となりました。幅約20m、奥行き約16m、高さ約30mの吹き抜け構造をもつ巨大な自然洞窟は、ギリシャ神話に登場するトロイア戦争の英雄・ピロス王ネストルや、その父ネレウスの牛舎だったという伝説が残る場所。発掘調査では新石器時代からの人類の生活痕跡や土器片が出土しており、古くから神話や歴史と深く結びついています。実在する空間そのものを生かすことで、巨大な怪物が存在する神話世界を、現実の風景として感じられる映像を生み出しています。
オデュッセウスが死者の世界へ向かう冥府の場面には、アイスランドの最北端に近い荒涼とした土地が選ばれました。ノーラン監督は、故郷イタケ島から遠く離れた未知の世界へ進んでいく感覚を表現するため、当初からこの地を望んだといいます。白夜の中で吹き荒れる風や雨、極寒の自然環境が、神話に登場する冥府の異世界感を際立たせています。
(原作「オデュッセイア」のモデルとされている場所はこちら[第二弾記事にリンク])
神話の舞台を現実の風景へと引き寄せたクリストファー・ノーラン監督。その映像は、壮大な冒険譚をスクリーンの中だけの物語ではなく、「いつか訪れてみたい場所」へと変えてくれます。映画を楽しんだ後は、オデュッセウスの足跡をたどるように、世界各地に息づくロケ地へ思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
トロイの木馬、キュクロプス、荒れ狂う海、そして冥府ハデス――。先ほど紹介した6つの見どころを支えているのが、ノーラン監督の徹底した「リアリティ」へのこだわりです。では、なぜノーラン監督は『オデュッセイア』を、これほどまでに“本物らしく”描こうとしたのでしょうか。その背景には、16歳の頃から抱き続けてきたある夢と、神話を「いまを生きる私たちの物語」として描こうとする思いがありました。
2800年以上にわたり語り継がれてきたホメロスの叙事詩「オデュッセイア」は、西洋文学の原点ともいわれる物語ですが、現代的な超大作としての映画化は初となります。ノーラン監督は本作の制作にあたり、「乗り越えるべき課題はあったが、古代ギリシャ神話の世界を蘇らせ、その物語や豊かなテーマの数々をこれまで見たことのない形で表現するという熱意に燃えていた。」と話しています。その思いを胸に、ノーラン監督は最高峰のスタッフと最新技術を投入し、すべての物語の原点を壮大な映像体験へと生まれ変わらせました。
実はノーラン監督には、16歳の頃から抱き続けてきた夢がありました。それは、いつか映画を全編IMAXで撮影すること。少年時代、シカゴ科学産業博物館でIMAX作品を観た体験から、「フィクションをこれで撮ったらどうなるだろう」と考えたといいます。そして、その夢を実現する作品としてノーラン監督が選んだのが『オデュッセイア』だったのです。
そのために本作では、長編映画として史上初めて全編をIMAX®フィルムカメラのみで撮影。さらに世界6か国で大規模なロケーション撮影を行い、巨大セットや実際の自然環境を積極的に活用しています。ノーラン監督が一貫して目指したのは、「空想的なアイデアにリアリティを持たせること」。CGだけに頼るのではなく、実在する風景や炎、風、波を映像に取り込むことで、神話を”本当にあった出来事”のように感じさせる世界をつくり上げました。
一方で、本作が目指したのは、ただ壮大な神話世界を見せることだけではありません。撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマは、本作の美学を「人間味あふれる叙事詩」と表現。広大な海と遥かな距離を踏破する物語でありながら、焦点を当てたのは「何としても妻と息子のもとに帰ろうとする男のパーソナルな物語」と話します。
長い旅のなかで描かれるのは、故郷への強い思いだけではありません。失ったものへの向き合い方や、罪を背負った者が何を取り戻そうとするのか、そして栄華を誇った文明の盛衰など、神話の時代を超えて現代にも通じるテーマが物語の奥に織り込まれています。ノーラン監督が語る「いまを生きる私たちの物語」という言葉にも、こうした本作の姿勢が表れています。
ノーラン監督は「オデュッセイア」について、「ありとあらゆる映画の基礎となっている」と語っています。実際、本作の非線形な物語構成や複数の視点が交錯する語り口は、『インセプション』や『オッペンハイマー』など、これまでのノーラン作品にも通じるものです。さらに幼い頃に心を奪われたトロイの木馬やキュクロプス、セイレーンといった神話のイメージを、現代最高峰の映像技術でよみがえらせることも、本作に込めた大きな挑戦でした。
壮大な神話と、ノーラン監督が徹底して追求したリアリティ。その両方が重なり合う『オデュッセイア』の世界は、スクリーンでこそ、その迫力と没入感を味わえるはず。オデュッセウスとともに、長く壮大な“帰還の旅”へ。この旅のすべてを、ぜひ劇場の大スクリーンで体感してみてください!
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photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.
<参考文献>
『オデュッセイア[上][下]』(岩波文庫)
TEXT:『地球の歩き方 W29 世界の映画の舞台&ロケ地』編集担当 清水真理子