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サローム(こんにちは)!
ガイドブックには載っていないながら、サマルカンドを訪れる旅行者の間でじわじわ口コミが広がり、今年ブレイクしそうな近郊の見所があります。それが市内から南西に約40km、アクサイ村から登ってたどり着く山の上にある巡礼地ハズラティ・ダヴド(Hazrati Dovud)。
このダヴド、英語でいうとデイビッド。英語圏の男性の人名でよくあるこのデイビッドという名前、もともとは古代イスラエルの王であったダビデが由来です。英語ではCave of St. Davidと称されることが多いこの場所、当記事では聖ダビデ洞窟と表記することにしましょう。
それにしても、ウズベキスタンから遠く離れたイスラエルの王とこの場所にどのような関係があるのでしょう?
ユダヤ教とキリスト教、イスラム教は一見すると水と油のような宗教ですが、イスラム教徒から見るとこの2つの宗教は同じ啓典(聖書とコーラン)をもとに成立する宗教で、ユダヤ教徒とキリスト教徒を啓典の民と呼んでいました。聖書とコーランの両方に登場する人物も多く、ダビデ(コーラン上だと「ダーウード」、ウズベク語だと「ダヴド」)もそのひとり。イスラム世界では預言者のひとりとされています。
そのダビデが敵に追われ、逃げ込んだという伝説があるのがこの聖ダビデ洞窟なのです。それゆえサマルカンドではイスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒共通の聖地とされており、休日には多くの人が巡礼に訪れます。
しかし外国人旅行者にとってここがもっぱら知られているのは、乗馬スポットとして。麓から山上の洞窟へたどり着くには1300段にも及ぶ階段を登る必要がありますが、それを回避する方法として馬が用意されています。馬のイメージがありながら意外と乗馬できる場所が少ないウズベキスタンですが、ここでは心行くまで乗馬を楽しむことができるのです。
駐車場からお土産屋が並ぶ参道を歩くこと10分、本格的な階段が始まるところに馬がわらわら集まっています。ひき手に見つかるやいなや、ものすごい圧で乗馬に勧誘されるでしょう。現在(2024年2月)の相場はドル換算で15ドルほどですが、外国人には倍ぐらいに吹っかけてくることも……。
この馬はあくまで乗り物、交通手段として利用されているため、乗馬練習などという生やさしいものはありません。乗ったが最後、ひき手のダヴァイ! ガトーヴァ!(さあ準備はいいな!)などの声とともにすぐに出発することになります。乗馬経験のない方にとっては不安極まりないでしょうが、馬はよく訓練されているそうで事故はめったに起きないとのこと。私も今まで知人たちを連れて7回ほど訪れましたが、皆さん問題なく乗馬を楽しんでいました。
乗馬時間は30分ほど。この間にぐんぐん高度が上がり、天気がよければすばらしい眺めが楽しめます。そんな余裕などないであろう馬には申し訳ないですが、こんな爽やかな空気のなかでのホーストレッキングはまるで天にも昇る心地にさせてくれます。
また馬の代わりに、ロバに乗ることも可能。料金は多少安くなり、また馬とは高さが全然違うため乗馬が怖いという方でも安心で、万一の事故のリスクも減るでしょう。ただひき手は付かないことが多く、私が一度ロバに乗った時はロバが道を踏み外して大暴走、知人が乗ったロバは文字通り途中で道草を食っていつまでたっても出発せず……という悲劇に見舞われました。どうもロバによって能力にムラがあるようです。
頂上にはずらりとお土産屋さんが並んでおり、少し歩くとモスクに到着。
ここからは急な下り階段になり、下りきったところが洞窟です。
この洞窟の中に入り、イマーム(イスラム教指導者)のもと皆で礼拝するのが一連の流れ。入口は狭く通るのに苦労しますが、そこを抜けると数十人ほどは入れそうな、入口からは想像もつかないような広いスペースに出ます。ある程度人数が集まるとイマームがお祈りの言葉ドゥオを詠んでくれるので、他の巡礼者とともにオーミン(両手で水を汲むような仕草をし、顔を撫でる礼拝作法)を行いましょう。なお洞窟内は撮影禁止。
ウズベク語が分かる方はぜひこのドゥオに耳を傾けてほしいのですが、よく聞くと皆さんが新しい車や家電を買えますように……と唱えています。この聖地らしからぬやたら現実的で世俗的なドゥオにもしっかり理由があります。このようなイスラム聖者や預言者は特定の職業の守護聖人とみなされることもあり、ダビデの場合は鍛冶屋の守護聖人とされています。これが時代を経るにしたがって金属系全般、さらには家電や車をカバーするようになったようです。宗教はまったく違いますが、このような巡礼地はまるで日本の神社にも似た現世利益を求める場でもあるのです。
礼拝後、馬を降りてきた場の手前まで戻ると、下へ下へと延びる階段が見つかるはず。あとはこれをひたすら降りていくのみです。1300段の階段を降りることを考えるとげんなりしますが、景色を楽しみながら、また途中多数立ち並ぶお土産屋を冷かしながら歩いていると、思ったほど時間はかかりません。もちろん帰りも馬やロバに乗って下ることもできます。
ただところどころ急な階段もあるので、転倒には十分ご注意を。
健脚の方なら3~40分、ゆっくり歩いても1時間ほどで登山口に戻れるでしょうか。サマルカンドから登山口まで往復で2時間、馬に乗り始めてから登山口に帰ってくるまでやはり2時間ほど、サマルカンドからの半日トリップにぴったりの行程です。ぜひ空気が澄んだ午前中に行ってみましょう。
この聖ダビデ洞窟へのアクセスについて。サマルカンド市内南部のターミナル、セリスキーバザール(グーグルマップでは https://maps.app.goo.gl/5J1q2yZCkek9kJC49)からダマスと呼ばれる乗り合いバンを使って自力で行くこともできますが、おすすめなのはツアー。私がボランティアスタッフとして活動しているサマルカンド観光案内所(103. 特派員が活動中のサマルカンド観光案内所ご紹介!学生スタッフがガイドする街歩きミニツアーも開催)でも日本語学生がご案内するツアーを開催しているほか、市内の旅行会社でツアーを申し込めます。聖ダビデ洞窟一帯は電波が弱く、いざというときに電話やネットが繋がらない可能性が高いので、万一のことを考えるとガイド付きツアーに参加するのがおすすめです。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!