
【フランス】カンヌ上映、早川千絵監督『ルノワール』岐阜をロケ地に少女の心模様を描く
2025.6.6
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5月13日から12日間にわたって南仏のカンヌで開始されている第78回カンヌ国際映画祭。主会場であるパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレで行われるイベントの他に、市内では映画祭に関連した催しが至るところで開かれています。5月16日に行われた「ウーマン・イン・モーション」プログラムにおける、是枝裕和監督と早川千絵監督のメディア向けトークイベントを取材しました。
「ウーマン・イン・モーション」とは、イヴ・サンローランやグッチなどのブランドを擁するグループ「ケリング」が、2015年からカンヌ国際映画祭と提携して行なっているプログラムです。文化と芸術の世界で活躍する女性の才能に光を当てています。
是枝監督は3年前から同プログラムに関わっており、今回のイベントの前半は、今年のカンヌ国際映画祭でコンペティション部門に選ばれた早川監督の作品『ルノワール』を絡めた映画との思い出について。後半は、日本の映画産業における女性の立場と、労働環境などについて話しました。
労働環境の改善と男女平等は、いずれの業界においても課題です。日本の映画産業では、長年の慣習などを基礎とした、長時間労働や子育て世代、女性の働きづらさなど大きな歪みがあり、その是正が求められています。
出産という人生のステージを踏むにあたり、女性はどうしても身体的にキャリアの中断を余儀なくされます。配偶者などの支えがあったとしても、仕事と育児の両立は大変な苦労を伴います。芸術の道に進んだことについて、早川監督はこう答えます。
「20代の頃は芸術の道に進むしかないと思っていたので、それは難しいことではなかったのですけれど、その後に自分は子供を授かってその子供を育てるとなった時に、難しいことになりました。
なぜなら自分が自由になる時間が無くなって、その以前であればどんな暮らしをしようと、自分の芸術を極めるためには貧しくても、それこそ芸術の糧になると思って全く恐れることはなかったんですけれども、自分が守るべきものができてしまった時に、そういう風な態度では無くなってしまった時に、なんて芸術に没頭することは難しいんだろうとすごく大変な時期がありました」
以前と比べて、女性の映画監督が増え活躍している日本映画の現状について、早川監督は「喜ばしいこと」と前向きに捉えますが、女性の監督がキャリアを継続するための環境整備は、まだ道半ばだと是枝監督は指摘します。
「子育ての段階になったときに一旦キャリアがストップするとか、そういうことを経験している女性の監督たちも周りにたくさんいて、そこをどういうふうにサポートしてあげられるだろうかということで、現場にベビーシッターを用意するお金をなんらかの形で手当てできないかとか、保育施設を撮影所に整備できないかっていうような働きかけを今いろいろやってはいる」
労働環境や労働時間などの働きやすさは、女性に限らず映画産業のために改善されねばならないと両氏は述べます。是枝監督は言います。
「フランスみたいに『(午後)6時に終わります』となると、そこからスタッフが保育園に子供を迎えに行ける、一緒に晩ご飯を食べられる。日常的な時間帯で撮影が始まって終わるというのが、まだ日本の現場だとなかなか。
最近、晩ご飯食べた後に撮らないことを(私は)結構頑張ってやっているんだけれど、ちょっと前だと晩ご飯を食べてからもうひと頑張り、テッペン(深夜0時)までにどうやって終わるかみたいな事情だったでしょう。だから、その習慣をどういうふうに変えられるか迫られているんだと思います」
映画における女性の描き方についても言及しました。是枝監督は「周りにいる女性たちに脚本を読んでもらい意見をもらうことを基本的に毎回やっている」と述べ、こう続けました。
「一つ具体的に言うと『そして父になる』という映画を撮った時に、『隣にいた女性は、子供を産んだらすぐ母親らしくなったのに、なかなか父親は(父親に)なった実感が持てなくて、一体父性というのはどこから生まれるんだろうか、というのを考えるために撮った映画です』という話をした。
その時『女性が産んだらすぐ母親になるというのは男性のすごい偏見で思い込みで、そういうものが元から女性に備わっているという考え自体をやはり変えていかなければいけないんじゃないか』ということを、周りにいた方から言ってもらった。
『なるほど、すごくそれは自分の中にも思い込みが強くあったな』と思った反省から、『Shoplifters(万引き家族)』みたいな映画が出てきているというのがある。本当に常に作りながらですけど、作って反省して、次へ繋げてということの繰り返しでここまできております」
早川監督もこう続け、トークイベントを締めくくりました。
「これまで何の疑問も抱かずに見ていた過去の映画だったりテレビドラマだったりを見ていた時に、ジェンダーを意識して見たらどれほど女性が良くなく、助けられる存在として描かれていることに気づいてから見始めると、メディアとか映画とかが人々に与える影響がものすごく大きいんだなと思いました。
それを見て育った自分も、女性としてこういうような振る舞いをしなくてはいけないと、知らず知らずに刷り込まれていたと、ようやく今になって思ってきた。自分が映画を作る立場になった時に、そこは本当に気をつけないといけない。それは女性だけではなくて、男性の描き方のステレオタイプだったり、自分の思い込みというのは、自分で気づいて意識していかないといけないと思っています」