
【フランス】長崎とイギリスが舞台『遠い山なみの光』がカンヌ映画祭で上映、現地での様子は?
2025.5.23
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5月13日から約2週間にわたって南仏カンヌで開かれているカンヌ国際映画祭。その「監督週間」で団塚唯我監督『見はらし世代』の公式上映が5月16日に行われました。26歳の団塚監督は、監督週間における日本人史上最年少での参加。現地カンヌで取材しました。
5月16日にカンヌ市内クロワゼット劇場で行われた『見はらし世代』公式上映は、とても印象的でした。展開や描写に厚みがありつつも、端々で感じる軽やかさ、そこに国籍や文化を越えて伝わるテーマを乗せて、観客の心を捉えていました。
公式上映当日、上映前にはにかみながら登壇した団塚監督と主演の黒崎煌代さん。団塚監督がフランス語で簡単な挨拶を述べると、客席からは大きな拍手が。続いて「フランス語の練習をしていて日本語はあまり考えていませんでした」と日本語で冗談を交えて話し始めると、場はさらに和んだものになりました。
『見はらし世代』は、母(井川遥さん)の死と残された父(遠藤憲一さん)と息子・蓮(黒崎煌代さん)の関係性、そして姉・恵美(木竜麻生さん)含めたそれぞれの自立を、再開発が進む東京・渋谷を中心にしてストーリーが展開します。家族問題を扱った作品ですが、物語の各所には団塚監督が登壇時に発したような笑顔を誘うユーモアや、観客を喜ばせる仕掛けが潜んでいます。
この映画に散りばめた仕掛けについて、団塚監督は「映画にしか起こせないことを(映画を)作っている中で考えていた。誰かと誰かが偶然に出会ってしまうとか、事件とか出来事だったり。日常と地続きの中に、もしかしたらあるかもしれないみたいなことは、とにかく映画でしかできないものだと思っているので、それを観客の人にどうやったら体験してもらえるかみたいなことを信じて、勇気がいる演出が結構あった。『付いてきて』って思いながら作った」と、上映後の日本メディア向けの取材で語りました。
母の死とそれに伴う家族問題という重いテーマを扱っているにも関わらず、団塚監督の仕掛けが物語のアクセントになり、全編を通して飽きさせません。上映後は約7分間のスタンディングオベーションとなり、中央の客席で立ち上がった団塚監督と黒崎さんを包みました。
『見はらし世代』は、団塚監督の「個人的な実感から始まった」作品だそうです。「自分の今までの体験とかで、すごく似たような悲しみがあった。個人的な感覚から出発しましたが、スタッフやキャストの方のアイデアとかがたくさん入った。僕だけの映画じゃなくて、みんなによって一つのフィクションになったなっていうのが、この映画に対して言えること」と団塚監督は述べます。
休暇先の田舎と普段の生活の場である無機質な都会。その2カ所を繋いで、各人物の心の変化が展開されていきます。作品内のセリフにおいては、私も普段何気なく家族に伝えてしまっている(そして伝えられた当人は快く思っていないだろう)言葉が耳に痛く、またそれら含めた普遍的なメッセージ性は、海外の、フランスでの観客にもきちんと届く内容になっています。
「海外の取材だったり、いろんな人からたくさんの前向きな言葉をいただくと、日本だけじゃなくて、いろんな人に伝わるんだなって思って。海外に来たけど、国籍どうこう関係なくすごい見てくれる。やっぱり映画ってそういうツールなんだなっていうのをすごい実感して、そういうものを信じて映画を作ってきたので、それがすごい嬉しい」(団塚監督)
カンヌで観客に注目された『見はらし世代』は、2025年秋に日本での公開が予定されています。