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1810年にカメハメハ大王がハワイ諸島を統一し、ハワイ王国が誕生しました。王朝が幕を閉じるまでのわずか80年余りの間に築かれた伝統や文化は、今なお島々に、そしてハワイに住む人々の中に生き続けています。
そんな王国の歴史と精神を、現代に伝えてくれるのがホノルルにある「イオラニ宮殿」。アメリカで唯一、ハワイに現存する3つの王宮のひとつであり、華やかな宮廷文化から王政の終焉に至るまでの歴史が静かに語りかけてくる場所です。
イオラニ宮殿は第7代国王カラカウアによって1882年に建造されました。そして、1893年までの間、カラカウア王と後継者のリリウオカラニ女王の公邸および迎賓館、そして政治を司る場所となりました。西洋への造詣が深かった王は、世界を旅する中で見聞した最新技術を積極的に取り入れ、旅で養った美へのこだわりを追求し、ハワイへ持ち込みました。
宮殿はアメリカン・フローレンス様式を基調とした美しい建築で、1880年代初頭にはまだ新しい材質だったコンクリートを取り入れ、イタリア産大理石の洗面台、そして長さ2メートルの銅張りの国王用の浴槽を導入。
さらに1886年にはホワイトハウスやバッキンガム宮殿よりも早くにアーク灯が灯され、世界的にも近代的な設備を誇っていました。
カラカウア王が所有する4台の電話のうちの3台は宮殿内に設置され、王が自室から隣の部屋の王妃に電話をかけるという微笑ましいエピソードもあります。現代の私たちが、隣にいる家族にLINEメッセージを送るような感覚でしょうか。
1893年、リリウオカラニ女王の退位により王政は崩壊。宮殿は新政府の庁舎となり、多くの調度品は競売にかけられてしまいました。
1969年に州議会が別の建物へ移転したことを機に、宮殿の本格的な修復が開始され、1978年から一般公開が始まりました。修復工事は今も続いており、2025年6月現在は地下部分の工事が行われています。
現在、日本人ドーセントによるツアーは週2回開催されています。今回は、ドーセントを務めるアン藤原さんにお話を伺いました。
Q: ドーセント活動について教えてください。
A: 私は「イオラニ宮殿友の会」という市民団体に所属して、2013年からドーセントとしてボランティア活動に携わっています。今は、毎月第2および第4水曜日の午後3時30分からのツアーをご案内しています。
Q: ドーセントになったきっかけは?
A: ハワイアンキルト制作のビジネスに携わる中、キルトを通してハワイの文化からたくさんのことを学ばせてもらいました。その恩返しとして、イオラに宮殿でのボランティア活動を始めました。
Q: ドーセントになるための研修は大変でしたか?
A: 歴史の講義、筆記試験、各部屋の説明を学ぶ実地訓練、現場研修はすべて英語で行われ、約9か月かかりました。そして日本語での口頭ツアーの最終試験があり、無事ドーセントになることができました。途中で辞める方も多く、同期20人のうち残ったのは10人ほどでした。
Q: アンさんにとってイオラニ宮殿はどのような場所ですか?
A: ベルサイユ宮殿に匹敵するくらいの優雅な佇まいのイオラニ宮殿は、大好きな宮殿です。エレガントで華やかでありながらも、ハワイの伝統文化をしっかりと守っています。この伝統が息づく場所に身を置くことができて本当に嬉しく思っています。
Q: お気に入りの場所は?
A: どこも好きなのですが、特に好きなのは「青の間」です。あの部屋に流れる「気」が私と合っているのか、部屋に入ると心穏やかになります。昔のハワイの人と繋がっていることを感じる場所ですね。
Q: とくに注目の展示は?
A: 2階のリリウオカラニ女王が幽閉された部屋に展示されている「クレイジーキルト」ですね。これは、リリウオカラニ女王が始めたキルトで、中央には女王の生誕からのストーリーが女王自身の刺繍で描かれています。ところが、女王はイオラニ宮殿での8か月後の幽閉の後、夫の実家であるワシントンプレイスに移り住んだので、キルトを完成させることはできませんでした。残りは女王の友人やおつきの人が完成させたと聞いています。このキルトを見るたびに、胸が熱くなります。
Q: 最後に日本の方へのメッセージをお願いします。
A: 現在、イオラニ宮殿では日本語のドーセントツアーとオーディオツアーを開催していますので、ぜひ参加ください。そしてもし日程が合うようでしたら、水曜日と木曜日のドーセントツアーがおすすめです。わからないことがあればその場で質問できますし、1階から2階への大階段を登れるのはドーセントがご一緒するツアーだけなのですよ。
ツアーは事前予約制。当日はイオラニ兵舎内のチケットオフィスで受付し、宮殿の裏側の回廊で靴カバーを受け取り、短いブリーフィングが終わるとツアーの開始です。
まず「大広間」で王族の肖像画を見ながら、ハワイ王朝の概要を学びます。
最初の部屋は「青の間」です。そして、すぐ隣の正賓室へ。正賓室にはボストンの名家具商会「A.H. ダヴェンポート商会」による椅子や戸棚が並び、ヴィクトリア様式の華やかさが目を引きます。
大広間を挟んで反対側には「王座の間」があります。ここは、近年修復が完了し、当時の空気を忠実に再現しています。
「王座の間」を後にし、大広間に出て、ツアー参加者だけが昇れる大階段を使って2階へ。
最初のお部屋は国王の寝室です。
そして執務室。
カラカウア王をはじめとし、音楽を楽しむ王族が多かったので音楽室もあります。
ハワイ王国最後の君主であるリリウオカラニ女王が幽閉されていた部屋には女王自ら制作に携わったクレイジーキルトが展示されています。このキルトを目の前にすると、女王の思いと時代の重さが胸に迫ってきます。
さらに地下には、かつての侍従長の執務室、再現されたキッチン、王族の宝飾品や勲章などが展示されており、見応えたっぷりです。
海やショッピングだけではない、ハワイのもうひとつの顔。それがこのイオラに宮殿にはあります。歴史を知り、文化を感じ、王族たちの息づかいに触れることで、旅はぐっと深まります。
次のハワイ旅行では、ぜひ水曜・木曜の日本語ガイドツアーに参加してみてください。きっと新しいハワイが見えてくるはずです。
◾️イオラニ宮殿◾️
住所:364 S. King Street, Honolulu, HI 96813
電話番号:808-522-0822
URL: https://www.iolanipalace.org/
ツアー詳細:https://www.iolanipalace.org/visit/tours-admission/guided-tours/