スペイン・アンダルシアで本場のフラメンコを楽しもう。事前に知りたい歴史や鑑賞マナー、おすすめのライブハウス

公開日 : 2023年02月10日
最終更新 :

温暖な気候に恵まれた、スペイン南部にあるアンダルシア州。郊外には広大なオリーブ畑が広がり、人々は陽気で情熱的、食事はスペインワインとともに時間をかけてゆっくりと楽しむ……。そんなイメージそのままの文化や雰囲気が、アンダルシアには存在します。なかでも特に象徴的なのはフラメンコではないでしょうか。アンダルシア発祥といわれるフラメンコは、スペイン各地でそれぞれ違った特色を持っています。今回はフラメンコの歴史や楽しみ方、とっておきのショーが観られるタブラオ(ライブハウス)を紹介します。

フラメンコとは

古くからフラメンコが根付いていたサクロモンテ地区の景色
古くからフラメンコが根付いていたサクロモンテ地区の景色

フラメンコは、アンダルシア州で発展してきた伝統芸能のひとつで、2010年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。今もセビージャ(セビーリャ)やカディスにあるフラメンコ学校では、フラメンコ界のトップスターを輩出し続けており、毎年多くの観光客がフラメンコショーを観にこの地を訪れます。

フラメンコは、歌い手、踊り手、ギター奏者の3者によって成り立ちます。ショーを観たことがなくても、踊り手が、釘が打ち込まれている靴を履き、タップダンスのような音を出しながら情熱的に踊る姿を思い浮かべる方も多いはず。

フラメンコの歴史

そんなスペインを代表するフラメンコですが、実は発祥の歴史は定かではありません。15世紀頃、温暖な気候を求めてスペイン南部へ入ってきたロマ族によって創り出されたもので、また当初は踊りやギター演奏はなく、歌のみだったというのが通説です。

19世紀に入ると、フラメンコはひとつの芸術としてアンダルシア中に広く普及していきました。たくさんの花形アーティストが次々と登場し、フラメンコは黄金時代を迎えます。一般市民やスペインを旅する観光客たちがフラメンコを楽しむための「カフェ・カンタンテ」という酒場が現れたのもこの頃です。

そして現代、フラメンコを世界に広げる火付け役となった歌い手のカマロン・デ・ラ・イスラ氏を筆頭に、数々のヒット曲を生み出した作曲家でギタリストのパコ・セペーロ氏や、歌手でダンサー、ギタリストでもあるトマシート氏により、フラメンコは全世界で愛されるようになっていきました。

パコ・セペーロ氏。作曲家として数多くのヒット曲を生み出した
パコ・セペーロ氏。作曲家として数多くのヒット曲を生み出した
トマシート氏。フラメンコギターの新たなジャンルを開拓し、「フラメンコ界のロックスター」と呼ぶ人も
トマシート氏。フラメンコギターの新たなジャンルを開拓し、「フラメンコ界のロックスター」と呼ぶ人も

フラメンコ発祥の歴史には諸説あるものの、大衆文化から生まれ、それがさまざまな歌い手、踊り手、ギター奏者の手によって洗練されていき、アンダルシアを代表する文化のひとつとして姿を変えていったことは確かだといえるでしょう。

楽しみ方と注目ポイント

フラメンコ特有のしゃがれ声で歌うカンタオール(写真右)
フラメンコ特有のしゃがれ声で歌うカンタオール(写真右)

フラメンコは踊りのイメージが強いですが、最も重要なのは歌。フラメンコを観る際に、知っておくとより楽しめるポイントをお伝えします。

ポイント1 演奏者の構成

フラメンコは、ショーによって演奏者の人数が変わる場合がありますが、基本的に以下の3者で成り立っています。

・歌い手
スペイン語でカンタオール。独特なしゃがれ声で、メリスマと呼ばれるこぶしをきかせて歌います。歌は、ロマ族的な要素が強いカンテ・ヒターノ、アンダルシア的色彩が強いカンテ・アンダルース、荘厳で深みのあるカンテ・ホンドなどに分けられます。歌の内容は、人生の喜びや悲しみを表したもの、土地の文化をテーマにしたものが多いです。

・踊り手
スペイン語でバイラオーラ(女性) / バイラオール(男性)。伝統的に、女性は曲線的で腕や上体の動きを大切にし、男性は直線的で激しい足の動きが特徴といわれています。ただし最近では、女性も激しく床を踏み鳴らすなど、境界はあいまいになってきています。

・ギター奏者
スペイン語でギタリスタ。当初フラメンコは手拍子で伴奏されていましたが、19世紀になってアンダルシアで民衆に親しまれていたギター伴奏楽器として取り入れられました。弦をひとまとめにかき鳴らすラスゲアードという技法はフラメンコ独特のものです。

ポイント2 テクニックと衣装

アーティストによって異なる衣装にも注目
アーティストによって異なる衣装にも注目

フラメンコ独特の踊りのテクニックと、華やかな衣装、装飾品についても確認しておきましょう。

・サパテアード
フラメンコのリズムの基本となる足さばき。打ち方や強弱を使い分け、音色の違いを生み出します。

・ファルダ
踊り手が身に着けるスカート。足の動きを見せるために持ち上げたり、ひるがえらせたりします。軽快な足さばきにも注目です。

・マントン
踊り手が使うショール。両手でまわしてダイナミックさを出すほか、体に巻きつけるなど衣装としても使われます。

ショーが観られるタブラオ(ライブハウス)

フラメンコを鑑賞するにあたって、旅行者が気軽に訪れることができるのが「タブラオ」と呼ばれるライブハウス。19世紀に誕生した「カフェ・カンタンテ」が発展したものです。バルセロナやマドリードなどの都市にもありますが、今回はアンダルシア州にあるタブラオをふたつ紹介します。

グラナダ・サクロモンテ地区にある洞窟タブラオ「ベンタ・エル・ガジョ」

グラナダはフラメンコが盛んな街のひとつ。その中でもサクロモンテは、古くからロマ族が丘の斜面に穴を掘り暮らしていたエリアで、独自のフラメンコが継承されてきました。現在ではこれらの洞窟住居のうちいくつかがタブラオとして利用されており、洞窟独特の雰囲気の中で迫力満点のショーが鑑賞できます。

ベンタ・エル・ガジョの入口
ベンタ・エル・ガジョの入口

サクロモンテにある「ベンタ・エル・ガジョ(Venta El Gallo)」も洞窟タブラオのひとつ。1977年創業の老舗です。

店内は洞窟を生かした造り。ショーは奥のステージで行われる
店内は洞窟を生かした造り。ショーは奥のステージで行われる

店内は洞窟を生かした造りとなっており、美しい白壁で統一されています。天井が低く広いとはいえませんが、圧迫感はなくどこかアットホームで落ち着く雰囲気です。

ベンタ・エル・ガジョは一般的なタブラオと同様、レストランとしても営業しており、ショーの鑑賞だけでなくドリンクやディナーを楽しむこともできます。

チケットは以下の4種類あります。(2023年2月時点。1ユーロ:約140円)

チケットの種類 値段
ショー鑑賞+ドリンク 22ユーロ、12歳以下は15ユーロ
ショー鑑賞+ドリンク+送迎 32ユーロ、12歳以下は20ユーロ
ショー鑑賞+ディナー 52ユーロ、12歳以下は30ユーロ
ショー鑑賞+ディナー+送迎 62ユーロ、12歳以下は34ユーロ

ショーは1日1回、21:00から1時間ほど。ショー終了後の22:00前後は帰路に着く観光客で混みあいタクシーも捕まりづらいため、ホテルまでの足が確保できるか心配な場合は送迎付きのチケットを買っておくと安心です。

  • シーフードのフライ

    シーフードのフライ

  • ナスのフライ

    ナスのフライ

  • トマトマリネ

    トマトマリネ

ディナー付きのチケットを購入すると、20:00から店内でグラナダの家庭料理を楽しむことができます。メニューはイカ、タコ、白身魚のフライやトマトマリネ、ナスのフライなど、食材のうま味を生かしたシンプルな料理が多め。メニューは変更となる場合があるので事前に公式サイトで確認しておきましょう。

情熱的なフラメンコが披露される
情熱的なフラメンコが披露される

21:00になるとショーが始まります。洞窟タブラオで上演されるフラメンコはロマ族によって踊り続けられてきたもの。同行したスペイン人の方は、洞窟タブラオのフラメンコはほかとひと味違い、より情熱的で臨場感があると言います。ステージと客席の距離が近いこともあり、踊り手の表情や汗、手足の機微な動きを間近で観ることができます。

フィナーレ。観客とアーティストたちの熱気が充満する
フィナーレ。観客とアーティストたちの熱気が充満する

圧巻のパフォーマンスは手に汗をにぎってしまうほど。上演が始まると目が離せなくなるくらい、情熱的でメッセージ性が強いショーです。

洞窟タブラオはサクロモンテにいくつかありますが、どの店も人気ですぐに埋まってしまうため、ショーを鑑賞する場合は事前に予約することをおすすめします。

ベンタ・エル・ガジョ(Venta El Gallo)

住所
Barranco de los Negros, 5, 18010 Granada
電話番号
858-950-315, 640-147-985
予約方法
こちらのページより予約
https://cuevaventaelgallo.es/reservas/

フラメンコの本場ヘレス・デ・ラ・フロンテーラにあるタブラオ「プロ・アルテ」

シェリー酒のボデガ(酒蔵)。スペイン語でシェリーはビノ・デ・ヘレスという
シェリー酒のボデガ(酒蔵)。スペイン語でシェリーはビノ・デ・ヘレスという

ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(以下へレスと表記)は、ヘレス酒(シェリー酒)の産地として知られていますが、フラメンコの本場としても有名です。毎年2月末から3月上旬にかけてフラメンコフェスティバルが開催され、この時期は多くの観光客が訪れます。

市内にある18世紀の宮殿を改装した「アンダルシア・フラメンコ・センター」では、フラメンコに関する書籍や映像資料を閲覧することができます。宮殿自体も歴史ある造りで美しいため、観光に行きがてら、フラメンコに関する知識を深めるのもおすすめです。

プロ・アルテの入口。重厚な木製の入口が迎えてくれる
プロ・アルテの入口。重厚な木製の入口が迎えてくれる

へレス市内にある「プロ・アルテ(Puro Arte)」は、古いワイナリーを改装したような雰囲気のタブラオです。

岩壁が落ち着いた雰囲気を醸し出している
岩壁が落ち着いた雰囲気を醸し出している

ここの見どころは、一流のバイラオール(踊り手)でもあり、振付家でもあるラウル・オルテガ氏が率いるトップレベルのアーティストからなるフラメンコショー。毎日22:00から上演されています。

チケットは大きく分けてショー+ドリンク、ショー+ディナーの2種類。ディナーは軽めな「タパスコース」、2名で分け合う「プロ・アルテコース」などいくつかあるため、予約時にサイトで確認するとよいでしょう。

チケットの種類 値段
ショー鑑賞+ドリンク 30ユーロ、3~10歳は15ユーロ
ショー鑑賞+ディナー 45ユーロ~、3~10歳は22.50ユーロ~

※ディナーはコースにより料金が変わります。

  • アリオリ・ポテト

    アリオリ・ポテト

  • トルティージャ

    トルティージャ

  • 豚頬肉のシチュー

    豚頬肉のシチュー

  • スペイン産赤ワイン

    スペイン産赤ワイン

  • 店内にはバーカウンターも

    店内にはバーカウンターも

  • ショー開始前のステージ

    ショー開始前のステージ

ディナー付きチケットを購入した場合、21:00からディナーが提供されます。料理はどれも家庭的で温かい味。その時々でメニューは変わるようですが、アリオリ・ポテトやトルティージャ(スパニッシュオムレツ)など、スペインの伝統的な家庭料理を楽しむことができます。

ドリンクメニューはスペイン産の赤・白ワインが充実していますが、へレスが誇るシェリー酒とともにリラックスしながらゆっくりとディナーを味わうのもオツかもしれません。

カンタオール、バイラオーラの衣装や足さばきにも注目したい
カンタオール、バイラオーラの衣装や足さばきにも注目したい

22:00になるとショーが始まります。トップレベルのアーティストが集まっているだけあり、踊りや歌のクオリティがとても高いことがわかります。

情熱的に踊るバイラオール
情熱的に踊るバイラオール

洞窟タブラオのショーとは違い、まるでミュージカルのようにストーリー性があります。しかし、こちらのショーには台本はなく毎回アーティストたちはアドリブでパフォーマンスを行います。毎回違ったショーが観られるのもこのタブラオならではです。

Puro Arte(プロ・アルテ)

住所
C. Madre de Dios, 10, 11401 Jerez de la Frontera, Cádiz
電話番号
660-030-420
予約方法
こちらのページより予約
https://holidaytickets.es/reservas/puro_arte_h/

ショー鑑賞時のマナーと予約方法

実際にショー鑑賞する際に気をつけたいマナーと、予約方法をまとめます。店によって異なる場合があるため、必ず訪問前に公式サイトやSNSで確認しておきましょう。

マナー
写真や動画撮影を禁止している場合もありますが、基本的には写真撮影OKの店が多いです。事前にサイトで、もしくはスタッフに確認しましょう。また、ショーではリズムが命。拍手は曲が終わった際に行いましょう。

ドレスコード
特にありませんが、レストランが併設されているタブラオへ行く場合はある程度おしゃれしたほうがよさそうです。

予約方法
現在では多くのタブラオに公式サイトがあるので、直接サイトから予約するのが一般的です。こちらの記事で紹介したふたつのタブラオもサイトから予約が可能です。場所によっては、アクセスしづらいタブラオもあるためツアー会社やホテルで予約するのもおすすめです。

まとめ

洞窟タブラオで踊る未来のプリマ
洞窟タブラオで踊る未来のプリマ

スペインを代表する文化のひとつであるフラメンコ。ひとくちにフラメンコといっても、地域ごとに特色があり、またタブラオによってもコンセプトが異なります。スペイン・アンダルシア州へ旅行に行く際には、ぜひタブラオで本場の情熱的なフラメンコとスペイン料理を楽しんでみてください。

取材協力・監修

協力:現代ギター社編集部

『現代ギター』2023年3月号
『現代ギター』2023年3月号

フラメンコには欠かせないフラメンコギター。どのような場所で、どう作られているか知っていますか? 『現代ギター』3月号では、ギター工房の様子やグラナダ屈指の職人について紹介しています。ぜひ、ご覧ください!

筆者

地球の歩き方 永倉

【記載内容について】

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