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2019年後半から20年前半にかけてオーストラリア南部を襲った未曾有のブッシュファイヤー(山火事)。実に日本の本州の8割近い面積の森が被害を受け、特に自然豊かなカンガルー島の森はほぼすべてが焼けてしまったという報道がありました。あれから2年以上経った今。カンガルー島の森が、そしてそこに棲む野生動物たちがどうなっているのか、地球の歩き方オーストラリア編改訂版取材でその現場を訪ねてみることにしました。
今回はアデレードからカンガルー島キングスコート空港へのフライトを利用。セントビンセント湾を超えた飛行機が南下すると、眼下にカンガルー島の大地が見えます。牧草地やその間を通る道路の周りの並木は、ブッシュファイヤーの痕跡を感じさせないほど緑豊か。コロナ禍で訪れる観光客が少なかった間に、確実に植物は再生してきているのが感じられます。
1日目は空港からカンガルーアイランド・オデッセイKangaroo Island Odysseysの島の東部を巡るワイルドライフ・ディスカバリーツアーWildlife Discovery Tourに参加。空港を出てわずか10分ほど、道路脇のユーカリ林の中でいきなり野生のコアラに遭遇。
ブッシュファイヤーでコアラが主食(というかそれしか食べない)とするユーカリの木がほぼ焼け、4万8000頭あまりいたコアラが8500頭まで減少。以前のように、比較的簡単に野生コアラを見つけることはできないのでは、と思っていました。ただユーカリは元々ブッシュファイヤーに強く、幹の表皮は焼けても、芯の部分までは完全に焼ける事が少ないのです。そのため2年の間に新しい葉をつけ、残ったコアラに食糧を供給。ガイドによると、確実にコアラの頭数も増えてきていると言うことでした。ただそれでもまだ十分な数には戻っておらず、さらにしっかりとした保護活動が必要と言うことです。
ツアーでは午後遅めから夕方にストークスベイStorkes Bayから島の中心都市キングスコートへ島の中北部海岸近くの道路を通りました。この一帯では牧草地に多くにカンガルーアイランドカンガルー(カンガルー島固有種)が現れ、藪の中にはティマーワラビー、さらにユーカリの木も上にはコアラを何頭も見ることができたのです。カンガルーやワラビーもかなり数を減らしたということでしたが、その姿を見るにつけ、どんな逆境があろうとも、自然の中でたくましく生きる野生動物の強さを実感することができました。
また幸運にも私有地の森の中でのピクニックランチの時に、野生のハリモグラも姿を見せてくれました。間近によっても我関せずと餌を探し回る、その愛嬌ある姿に思わず笑みがこぼれてしまいます。
訪問時期が5月半ばだったのですが、このときはちょうどカンガルー島周辺に生息するオーストラリアアシカ、ニュージーランドオットセイが繁殖する時期とのこと。カンガルー島でいちばん人気のシールベイ保護区では、母親のそばですやすや眠ったり、好奇心旺盛に動き回る子供アシカの姿を多く見ることができました。ブッシュファイヤー時に焼けた可能性のあるビーチ近くの茂み。今では緑も生い茂り、昼寝をしたりするアシカの姿もたくさん。彼らの安息地もしっかり復活してきています。
2日目は、エクセプション・カンガルーアイランドException Kangaroo Islandのフリンダーズチェイス・フォーカスツアーFlinders Chase Focus Tourに参加したのですが、そこで訪れた下記フリンダーズチェイス国立公園内アドミラルズアーチAdmirals Archでは、オットセイの子供も元気に泳ぎ回っていました。
2日目のツアーのハイライトはカンガルー島西部に広がるフリンダーズチェイス国立公園。火災による被害が特に大きかったエリアです。国立公園入口にあった小さな博物館を兼ねたビジターセンターは消失してしまっており、今はプレハブ造りの建物でサービス中。森は確かに緑は戻りつつあるものの、所々は芯まで焼けてしまったユーカリ林もあり、元通りになるまではまだしばらく時間がかかりそうです。
そんな中、フリンダーズチェイス国立公園随一の景勝地であり花崗岩の奇岩が海沿いに残るリマーカブルロックス。ブッシュファイヤー後の報道映像をよく覚えているのですが、その時は奇岩の周りの大地は完全に黒焦げでした。今は緑の藪も大分復活。駐車場から岩へ続くボードウオーク周辺には「Regeneration area」の看板があり、ゆっくりとではあるものの植物が芽吹き始めているのを知ることができます。
今回カンガルー島を訪れ、自然の回復力のすごさを感じました。ブッシュファイヤーはオーストラリアのいくつかの植物が新しい芽を出すためには必要な自然現象。毎年すくなからずのブッシュファイヤーが、自然のサイクルの中で起きているのは事実です。しかしそれが2年前のような大惨事となるのは異常です。原因が何であるにせよ、被害拡大の一端を人間の行いが加担した可能性は否定できない――そう考えると、この豊かな自然を大切に守るために私たちは何ができるのか、そうしたことを改めて問い直すきっかけとなる旅でもありました。
●カンガルーアイランド・オデッセイ
・URL:https://www.kangarooislandodysseys.com.au/
●エクセプション・カンガルーアイランド
・URL:https://exceptionalkangarooisland.com/
オペラハウスのあるシドニー、歴史ある美しい街メルボルン、世界遺産の海と森ケアンズ、珠玉のビーチが続くゴールドコースト、世界遺産ウルル(エアーズロック)。これらオーストラリアの魅力的な街や大自然を自由自在に楽しむノウハウが満載。本書を片手に、さあ、感動あふれる大陸へ出かけよう。
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※当記事は、2022年6月7日現在のものです
TEXT: 『地球の歩き方ガイドブック オーストラリア』編集担当 伊藤伸平
PHOTO: 伊藤伸平
〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
渡航についての最新情報は下記を参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL:https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html