黒部ダムの“裏ルート”解禁。「黒部宇奈月キャニオンルート」を歩く
2023.10.25
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黒部宇奈月キャニオンルート記事の取材が決まった時、この道ができるきっかけになった登山道・下ノ廊下もセットで歩こうと決めていました。23年は猛暑の影響からか紅葉の始まるのが遅く、有名な三段紅葉(雪の白、紅葉の赤、低標高部の緑)を見ることはかないませんでしたが、美しい秋の黒部やスリル満点の登山道、秘境の阿曽原温泉を堪能することができました。
下ノ廊下とは、仙人ダムから黒部ダムを黒部川沿いに進む登山道で、欅平からの仙人ダムまでの水平歩道とあわせ、登山者に人気のルート。
旧日電歩道とも呼ばれており、道の険しさや雪崩などによる登山道の崩壊を修理してから開通するルートのため、1 年間で1ヵ月ほどしか歩けないことでも有名です。元々は登山道として整備されたわけではなく、電源開発の目的で切り立った崖にダイナマイトなどを利用して作った道で、高低差は少ないですが、歩行距離が長いのと、「黒部にけがなし」と呼ばれる断崖絶壁が続くことから上級者向けのルートとされています。
キャニオンルートから下山し、買い出しを済ませた後、前日は黒部ダムから20分ほどにあるロッジくろよんに入り、翌日からの長丁場に備えます。
朝4時ごろから登山者は動き始めます。我々は5時に起床し、5時半過ぎには出発しました。
まだ扇沢からのトロリーバスの始発が出発する前の誰もいない黒部ダムを下部に向かって降りていき、黒部川を渡ったあたりから断崖に1本の線がついた登山道へと変わっていきます。
この登山道は今日の目的地である阿曽原温泉の方たちによって整備されているそうです。丸太で整備された道の上を歩くのですが、この橋をどうやって建てたのだろう?と、過酷であろうルート整備に感謝しながら進みます。
内蔵助谷出合を通り過ぎ、切り立った黒部別山谷を通り過ぎると、下ノ廊下随一の名所。十字峡の吊り橋はもうすぐです。ここはキャニオンルートで裏劔を眺めた棒小屋沢、劔岳や真砂岳の水を集める劔沢と黒部川の3本の川が一か所で交わる、日本でもとても珍しい場所です。
ここまで休み時間も含めて5時間くらい。黒四ダム、仙人ダムまではまだ2時間ほどかかるでしょう。気の抜けない道を、絶景を堪能しながら進みます。
十字峡からの深い谷の中を1時間超。S字峡に差し掛かる直前に飛び込んでくるのが黒四地下発電所の送電線です。(普通なら今日の目的地の「ついに阿曽原温泉に到着!」だと思いますが、今回はあくまで発電所を観察するのがメイン目的なので…)2日前に見学した発電所内の壮大な風景がフラッシュバックします。
送電線を過ぎると、川はいったんひらけた景色になり、ほっと一息つけます。発電所の搬入路や資材などの人工物を歩いていくと、向かいに仙人ダムが見えました。先日乗ったトロッコ列車の仙人ダム駅から見た風景を今度は仙人ダム側から眺めます。
トロッコ列車に乗っている時には気づきませんでしたが、トロッコ軌道の下部に大きな管が。あとから阿曽原温泉のご主人に確認したところ、やはり発電所からの送水ラインとのこと。他にも送水管が2本あり、それらがここから下流の黒三、新黒三発電所で利用されているとのこと。
トロッコ軌道に歩きついた瞬間、キャニオンルートと下ノ廊下の自身の見た道が円に繋がりました。
ここから阿曽原温泉へはあと少し。長時間の歩きで疲労していたのか、温泉へ続く最後の登りと下りの100m程度が地味にこたえましたが、温泉とビールでその疲れも吹き飛びました。
もう秋なので、日もすぐに落ち、宴会も早々に明日に備え就寝します。夜9時過ぎから結構な雨になりましたが、温泉でリラックスできたので、気分は揚々です。
事前の予想通り、雨は朝になっても降り続いていました。晴天時の欅平のトロッコ列車は観光客優先で登山客は乗れないこともある、と聞いていた私たちですが、なんとかなるかな、と思いつつ、6時前にはそそくさと阿曽原温泉を発ち、雨の中を欅平へ急ぎます。秋の雨は肌寒く、景色も煙って良くないので、写真はあまり撮りませんでした。
歩き始めてから6時間ほどでゴールの欅平まで降りてきました。雨なので淡々と歩いてきましたが、晴れだったらもっとゆっくり歩いてもいい道でした。
黒部ダムから30kmちょっとの道を歩いてきましたが、黒三➡仙人ダム➡黒四ダムと当時の方はこの険しい黒部川をさかのぼる形で電源開発の道を作ってきたのだなぁと感慨深くなりました。(私は普段は釣りもするのですが、「これいりますか?」というダムに抱くやるせなさは別として…)
2日目は雨にたたられましたが、キャニオンルートという事前学習を通して、非常に充実した山行になりました。登山経験がない方にオススメできるルートでは正直ないのですが、人がこぞってここぞ目指したがる理由の一端は理解できた気がします。もし、黒部・立山がきっかけで登山に興味を持たれる方がいらっしゃったらぜひ目指していただきたいルートのひとつです。
余談ですが、個人的に厳しかったのは歩いたルートというよりかは、下山後再度雨の中のトロッコ電車に揺られることでした。観光客にも人気のルートなので、折り返しで窓付き切符が取れなかった登山者は窓ナシのオープン座席に押し込められます。(場合によっては乗車まで2時間かかることもあるそう)雨で冷え疲労した体で体を動かすこともできず秋の1時間半はかなり寒いです。着替えを持っている方はぜひ着替えてから列車に乗り込んでください。
トロッコ列車を降りた宇奈月温泉では、日帰り入浴可能な「湯めどころ宇奈月総湯」があります。電車の接続時間が許す方はぜひここで体を温めてから富山地方鉄道本線に乗り換えてください。
また、ここから新幹線に乗られる方に注意していただきたいのですが、新幹線の接続駅である黒部宇奈月温泉駅は、周辺に飲食店がほぼありません。(キャニオンルート取材の際、40分ほど夜のこの駅で待ったのですが、地元の降りた方が次々と迎えの車に乗り込んでいくのを尻目に、ひとり待合室で過ごした時間はとても心細かったです)新幹線駅だし…と油断していると足元をすくわれますのでご注意下さい。
ここから富山駅は目と鼻の先。新幹線に乗車しても1500円かからず15分ほどで出られますので、下山後の打ち上げは富山で開催することを強くオススメします。