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ローマから日帰りできる、ダンテ『神曲』ゆかりの温泉を巡る
2025.2.1
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世界広しといえどもインドほど好き嫌いがはっきりと分かれる旅行先はないかもしれません。一度その魅力にハマると抜けられないといわれるインドは、『地球の歩き方』がバックパッカーのバイブルといわれるようになったきっかけの国のひとつとして知られます。温泉を目的にインドを旅する人は少ないと思いますが、実は広い国土には500を超える多彩な温泉が湧いています。
今回はインド最大の温泉郷「マニカラン」とその周辺の温泉を紹介します。読者の皆さんと一緒に温泉街を旅するように歩いてみたいと思います。
マニカランはインド北部、ヒマーチャル・プラディシュ州のパールヴァティ渓谷にあります。一帯はヒマラヤンクリスタルの産地として知られ、源泉の温度が80度を超える温泉が湧いています。首都のデリーからは国内線で最寄りのクル(ブンタール)空港まで1時間20分。そこから車で1時間半ほどと比較的アクセスしやすい温泉です。
空港からの車の手配は旅行会社を通じて行うことができます。インドはイギリスの植民地でしたので英語を話すドライバーが多いのですが、英語でのコミュニケーションに自信がない場合は日本語ガイドも一緒に依頼できます。本数は少ないですが、路線バスを利用して行くことも可能です。
クル空港を出発し、国道3号線を右折して東に進みマニカランへ向かいます。道中は舗装されていますが、最後の5kmは大きな岩が道路にせり出す箇所が続きます。やがて急に開けた場所が現れたかと思うと、マニカランに到着です。
ちなみにクル空港は、伝統的な木造建築物が残るインドの避暑地「マナリ」の玄関口としても有名です。マニカランへ旅行の際にはあわせて訪れてみるのもいいでしょう。
「暑いインドで温泉に浸かって気持ちいいの?」と思われるかもしれませんが、マニカランは標高1760mの高地に位置しているため、一番暑い時期でも平均気温は20℃強、冬は10℃以下と、温泉のありがたみを実感できる気候です。パールヴァティ川の両岸には、宿や寺院がずらりと並び、4月に訪れたときは随所で湯気が上がっていました。
駐車場は温泉街の一番奥にあり、観光バスや路線バス、自家用車などがぎっしりと並んでいます。川の反対側からマニカラン橋を渡ると温泉街の始まりです。マニカランの温泉街を歩くには、上流側から1. テンプル、2. シヴァ寺院、3. グルドワラという3つのエリアがあることを理解しておくと便利。明確な境界線があるわけではありませんが、歩いていると雰囲気が変わるのでわかります。
橋を渡り左折してメインストリートを進むと、煮え立つような泉源と共同浴場に続き、ヒンドゥー教やラマ教(チベット仏教)の伝統的な寺院が現れます。その先には個室風呂を備えた入浴施設やゲストハウス、軽食堂などが軒を連ねています。マニカランでは後述するシヴァ寺院とグルドワラのふたつが有名で、橋を渡ってすぐのエリアは素通りする人が大半ですが、入浴に適した施設がたくさんあります。
実際には特に名称はないそうですが、地元の人に尋ねると、「あえていえば、テンプルエリアかなあ」との話でした。
建物が密集した通りを進むと、ヒンドゥー教のシヴァ神を祀る寺院に着きます。マニカランのシンボルともいえる尖塔が本殿です。脇に立つシヴァ神の彫像の下には豊富な湯が湧く泉源があり、猛烈な勢いで湯が湧き立つ様子を見られます。
ここでは、米を入れた大きな釜に温泉を直接注ぎ、布を被せてその場で40分湯煎しながら蒸すとおいしいご飯が炊きあがるそうで、地元の人の調理中の釜をいくつか見かけました。
最後はシーク教の大寺院、グルドワラです。ここが町でもっとも有名なため、グルドワラ温泉と呼ばれることがありますが、正確にはマニカラン温泉郷の一部のエリアを指します。
増築を重ねた建物に入ると階段や通路が入り組んでいて、迷ってしまいそう。男女別の内風呂と温泉の蒸気を利用したサウナ室、食堂などがあります。グルドワラでは、温泉や食事はすべて無料。信徒でなくても大広間に座れば食事が提供されます。もちろんカレーです。信徒ならば宿泊も無料です。
町の下流側にある対岸への橋を渡るとグルドワラ名物の大きな温泉プール(冒頭の写真も)があります。少し濁った緑色の湯は高温で、湯口から離れた場所でないと浸かれません。露天は男性専用で、深さは120cm程度です。「泳ぐな」という注意書きがありますが、若者はみな泳いでいました。女性用の浴室は壁の内側にあり、数十人が入浴できる広さがあるそうです。
マニカランの温泉は全体にきれいで、よほど神経質な人でなければ日本人でも満足できると思います。とにかく湯量が豊富で、大量の温泉がかけ流しされています。浴槽内でシャンプーや石けんを使用してしまう温泉をインドの別エリアでみかけましたが、筆者が見た限り、マニカランでは洗い場に座り、桶やひしゃくで湯をかけて洗っていました。湯温は高めで、体が温まります。
なお、世界各地には「とんでもない温泉」がたくさんあるため、筆者から見ると「問題ない」レベルなのですが、一般の人の感覚とずれていた場合には申し訳ありません。
ヒマーチャル・プラディシュ州にはほかにも魅力的な温泉があります。マニカランの5km手前のカソールは外国人にも人気の温泉地ですが、絶景の露天風呂があるのはほとんど知られていません。町の中心から、細い川沿いの道を下っていくと、パールヴァティ川への合流点に着きます。露天風呂は大きな橋の向こうに。
筆者が現地情報調達のためにウェブサイトで見た時は、岩を積んだ素朴な浴槽でしたが、実際に訪れると長方形の立派なコンクリート浴槽がありました。透明な湯ですが底が砂地のため、入浴すると砂が舞い上がって濁り湯に変化します。浴槽から見えるのは、青い空と木々の緑、清流とヒマラヤの雪山。まさに絶景の露天風呂です。
今回マニカランへ向かうために利用したクル空港の利用者は、マナリを最終目的地としている観光客が多く、機会があればぜひ訪れてみたい人気の観光地です。マナリ近くにあるヴァシシュト温泉も有名でよく知られています。伝統的な木造建築が美しいヴァシシュト寺院の内部と外に共同浴場のような露天風呂があり、誰でも利用できるので、マナリ観光の際には外せません。なお、寺院内は撮影禁止です。
ヒマーチャル・プラディシュ州の温泉をもう少し紹介します。マナリから南へ7kmの場所にはカラトゥ温泉があります。こちらはヴァシシュト温泉やマニカラン温泉のように観光地化されておらず、共同浴場が点在するだけのローカルな温泉街です。英語の看板すらないので、ほとんどの人は気づかずに通り過ぎてしまいます。またかなり離れた場所ですが、温泉浴室を備えたホテルに宿泊できるタッタパニ温泉もあります。州内の温泉について知りたい方は、筆者のブログも参考にしてください。
施設名 | URL |
カラトゥ温泉(筆者ブログより) | https://onsentraveler.hatenablog.com/entry/2025/02/06/191125 |
タッタパニ温泉(筆者ブログより) | https://onsentraveler.hatenablog.com/entry/2024/01/04/194725 |
よく調べずに町の食堂に入るとカレーしかありませんが、カレー以外の郷土料理も食べられます。例えば、モモはチベットやネパールの名物料理ですが、インド北部でも人気です。スパイスの風味が加わっていますが、日本人には食べやすい味で、連日のカレー攻めに疲れた胃が喜びます。
温泉はインド旅行のメインディッシュにはならないかもしれませんが、せっかくインドを訪れたのなら、ぜひ体験していただけると嬉しいです。
施設名 | URL |
ヒマーチャル・プラディシュ州の温泉情報 | https://www.himachalworld.com/himachal-geography/hot-springs-in-himachal.html |
クル県(Kullu District)のサイト | https://hpkullu.nic.in/tourist-place/manikaran/ |
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