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【パリ】五輪から1年、大会がもたらした観光へのインパクトと2024年レガシー

守隨 亨延

守隨 亨延

フランス特派員

更新日
2025年5月27日
公開日
2025年5月27日
©︎Yukinobu Shuzui 記者会見に参加したドラートル観光担当相(中央)ら

パリ・オリンピックからもうすぐ1年です。人々を熱中させたこの国際スポーツイベントが、どのようにパリそしてフランスの観光と経済に寄与したか。大会から1年を迎えることを前に、5月22日にエッフェル塔内にある会議室サル・ギュスターヴ・エッフェルにて、パリ観光開発機構(Atout France)が主催してドラートル観光担当相などを交えた「パリ2024大会ツーリズムレガシー」の記者会見が行われました。

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スポーツを越えて国の魅力を伝えた大会

©︎Yukinobu Shuzui アベル・フランス観光開発機構総裁代行

2024年7月から9月にかけて開かれたパリ・オリンピックとパラリンピック(2024年パリ大会)は、国際スポーツ大会としてだけでなく、都市そして国の環境整備およびプロモーションと相まって、経済的にも大きな効果を上げました。

パリ市は文化・歴史遺産が集積する、世界的にも集客力のある都市です。新しい鉄道路線の整備や既存施設の改修により社会インフラの底上げをすると共に、パリのブランド力を活用しながら、パリ市北部に位置するセーヌ・サン・ドニ県など、従来は焦点が当たりづらくなっていたエリアを、競技施設や選手村の建設などで再開発することによってイメージを改善。人々の関心を呼び込むことに繋げました。

パリ観光局(Paris je t’aime)のメネゴー局長は「セーヌ・サン・ドニなど、首都圏北部地区の旅行者向けアパートは(昨年)6月で40%が埋まった。これはとても大きな数字であり、私たち全ての人々にとって偉大な業績だ」と強調しました。

©︎Yukinobu Shuzui メネゴー局長

2024年パリ大会は、パリ近郊だけでなくセーリングをマルセイユ、サーフィンをタヒチといったパリから遠く離れた場所で開催。サッカーはリール、ボルドー、リヨンなど国内7都市のスタジアムを用いて、フランス国内における大会効果の波及を目指しました。

2024年パリ大会は、オリンピックおよびパラリンピック史上初めて、スタジアムの外で競技を行った大会でもありました。大会後に維持費がかかる恒久的な施設の新規建設を抑えながら、国際的に知名度があるエッフェル塔、コンコルド広場、グランパレ、ヴェルサイユ宮殿といったモニュメント内または隣接した場所に仮設の客席と競技場を設けました。それにより話題を生み出し、印象的な映像を世界に発信。スポーツ報道を通じて、フランスという国の魅力を伝えることを狙いました。

アベル・フランス観光開発機構総裁代行は「2024年パリ大会は、スポーツを越えて現代的でダイナミックであり人々を歓迎する国であるフランスを紹介した。素晴らしい大会運営とお祭りの精神による満足いくものだった」と述べます。

2024年パリ大会がもたらした影響

©︎Yukinobu Shuzui ドラートル観光担当相(右)

2024年パリ大会は、実際にどれくらいのインパクトをフランスにもたらしたのでしょうか。

フランス観光開発機構が出す「2024年パリ大会ツーリズムレガシー」の資料によると、2024年の1年間において、1億人以上の外国からの旅行者がフランスを訪れたそうです。それら旅行者の支出額は710億ユーロ(約11.6兆円)。前年より、人数としては2%、金額としては12%増えました。

オリンピックにおいては1120億人を迎えました(チケット所持者、非所持者、地域在住者含む)。そのうち15%が海外から。国別旅行者のうち、もっとも多かったのがアメリカ(13.5 %)。そしてイギリス(7.6%)、ドイツ(6.8%)が続きました。前年の2023年と比較したて人数を大きく伸ばしたのが、ブラジル(109.4%)、中国(64.9%)、日本(94%)の3カ国でした。

オリンピックのチケット所持者の38%が海外であり、国数は222ヵ国。国別ではアメリカ、イギリス、ベルギー、ドイツ、オランダの順に多くの人々が訪れました。

これらフランスを訪れた旅行者について、フランスのドラートル観光担当相は「私たちはとても前向きなフィードバックをもらった。オリンピックに関連した旅行者の97%がフランスでの滞在を評価し、84%がフランスに戻って来たいと答えた」と自ら評価します。

ポスト五輪の課題と目指す先

©︎Yukinobu Shuzui

フランスは、2024年パリ大会における観光面でのレガシーを閉幕後も長期的に維持するため、プロモーションに取り組んでいます。

2024年パリ大会を一つの契機とした、交通などの社会インフラや環境整備についても、引き続き進められています。既存の地下鉄路線の延長や新規敷設による郊外とパリ中心部を結ぶ利便性の改善と、それに伴うパリ都市圏の拡大です。具体的には「グラン・パリ・エクスプレス」計画や、2027年に開業予定のパリ北方にあるシャルル・ド・ゴール空港とパリ市内のパリ・東駅を20分で繋ぐ空港アクセス線「CDGエクスプレス」などです。自転車専用道も広がりました。

しかし、全てが順調というわけではありません。2024年パリ大会を前に開業した新駅については、全ての駅でバリアフリー対応で設計され、既存駅の一部でもバリアフリーが実現しましたが、100年以上前に地下に作られた既存駅は、構造上バリアフリー化の工事が困難を極めています。CDGエクスプレスについても、当初はオリンピックに合わせての開業でしたが間に合わず、2027年まで開業予定が後ろ倒しになっています。

バリアフリー化について、チューズ・パリ・レジオンのドクルー代表代行は「地下鉄駅にアクセスできるエレベーターを設置するためには1億ユーロ(163億円)の費用がかかる上に、(古い構造物が多くある)パリの地下を掘削するためには建築の専門家と話し合わなければならず、簡単なものではない。パリおよび近郊自治体が取り組む現在進行中のプロジェクトであり、長期のプロジェクトになる」と状況を説明します。

©︎Yukinobu Shuzui ドクルー代表代行(右)

2024年パリ大会の象徴の一つだった、セーヌ川を競技場として使い、将来的には誰でも泳げる川にするという計画も、実際オリンピックが近づいてもなかなか川の水質が、求められる基準値まで改善しませんでした。オリンピックが始まった後も、水質が競技実施可能な基準値まで達しないことを理由に、何度か競技の延期が直前で行われた後に、トライアスロンの水泳競技とマラソンスイミングが実施された経緯があります。

セーヌ川の水浴については、パリのイダルゴ市長が昨夏の会見において「来夏(2025年)はセーヌ川で泳げるようになる」と掲げ、今年5月14日のパリ市長会見では、2025年7月5日から8月31日までパリ市庁舎前のブラ・マリ、パリ12区のベルシー、同15区のベニャード・グルネルの3ヵ所に水浴場を設けることが発表されました。

パリ観光局(Paris je t’aime)のメネゴー局長は「ブラ・マリは(セーヌ川を行き交う)船の運行があるため午前だけ、ベルシーとグルネルは一日中になるだろう。水浴場は、オリンピックおよびパラリンピック期間にアスリート向けに行ったものと同じ(水質)テストをする」と答えます。

フランスは、2024年パリ大会という強い推進力を背景にしつつ、国内外の高い注目度による大きなプレッシャーの中で、環境整備に加えてセーヌ川での水泳競技実施など、当初は画餅に帰すのではないかと思われていた計画についても成し遂げてきました。2024年パリ大会のレガシーを基礎として維持しつつ、もう一段上の積み上げをいかに実現させていくかが、今後の課題となりそうです。

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