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2023年3月、エルアル・イスラエル航空の定期直行便が東京(成田)~テルアビブ間に就航した。両国を繋ぐ初のダイレクトフライトで早くて楽チン(約12時間)。早速搭乗し、イスラエル旅行へ行ってきた。そこで、この旅を6回に分けてレポート! 2回目は北部の見どころと知られざる自然の美をご紹介!
ヤッフォを出て海岸線に沿うように作られた高速2号線を走る。車窓を彩るのは左にコバルトブルーの地中海、右にバナナやアボカドの農園のグリーン、高速を突っ走っているが飽きのこない風景が続く。
このあたりは、東ローマ帝国からアラブ、十字軍を経てオスマン朝と、さまざまな文化や民族が影響を与えたところ。
しばらく走ると「カイザリア」の道路表記に続いて、波打ち際に堅牢な石の砦が見えてきた。皇帝カエサル(シーザー)の名を載くこの地はかつてローマからやって来た十字軍の玄関口だった。発掘されたローマ時代の円形闘技場などの遺跡はひときわ大きく、ローマの力を見せつける。整備された遺跡では、夏になると演劇や音楽イベントが行われ、地元の人ばかりでなく、多くの観光客を集めている。海風に吹かれながら時代を超えた場所で行われるイベントはきっと特別な思い出を残してくれるに違いない。
途中、ハイファの町に立ち寄る。地図で見ると地中海上にフックのように飛び出しており、良港であることがわかる。実際、イスラエル建国以前から貿易港として栄えてきたという。ハイファは、さまざまな地域から移民を迎え入れたことで、ユダヤ系以外の人々の割合が比較的大きい町としても知られている。
昨今は積極的にハイテク産業を誘致し、若い才能が集う学園都市としての顔も見せている。中心地でもあるジャーマン・コロニーは次の世代を担う学生たちでにぎやかだ。
そんなハイファで見逃せないのがユネスコの世界遺産に登録されているバハーイー庭園。ここにはバハーイー教の先駆者バーブの廟があり、多くの信者が足を運ぶ。山あいに設けられた庭園は麓まで美しく伸び、ハイファの目抜き通りであるベン・グリオン通りに繋がり、港までを真っ直ぐに貫いている。
*内部は予約制のツアーでのみ見学可能。入口やバルコニーから庭園を眺めるだけなら予約なしでOK
ハイファを出て、アッコーの町へ。この町もまたさまざまな民族や文化が行き交った歴史の町。十字軍やマムルーク朝、オスマン朝など時の権力者がアッコーの天然の良港を奪い合った。その時代時代で古い町の上に新たな町が築かれ、そのため遺跡の上に遺跡が重なっている状態。この町では未だに発掘が終わらないという。
現在見られる旧市街の建築物はおもにオスマン朝後期のもの。モスクや隊商宿など見どころも多い。アッコーの旧市街もまたユネスコの世界遺産に登録されている。
アッコーの旧市街にはおもにアラブ系の人々が住んでいる。アラビア語でスーク、ヘブライ語でシュックと呼ばれる市場は、そぞろ歩きが楽しいところ。色とりどりのピクルスやさまざまな匂いを放つ香辛料が店先に並んでいる。
目を引いたのはバクラヴァ。トルコをはじめ中近東で広く食べられている菓子で、イスタンブールの老舗が東京に出店するなど話題を集めている。日本でも「次に流行する菓子」として女性誌に取り上げられたので気になっている人は多いのでは?幾層にも重ねたパイ生地にピスタチオやクルミなどのナッツ類が挟み込まれ、そのレシピは千年の歴史があるという。サクサク食感の次にバターシロップがじゅわっと口の中に広がる。日本人にはちょっと甘すぎかもしれないが、アラブ系の人もユダヤ系の人もこの甘さのトリコ、人が集まるときには欠かせない人気スイーツなのだ。
ランチはオーソドックスなイスラエル料理店で。テーブルにはあらかじめ彩り鮮やかな野菜や副菜類が並べられている。サイドディッシュが多いのがイスラエル・スタイルだ。席に着くとまずは冷えた自家製レモネードが暑い日差しにさらされたカラダを潤してくれる。グラスを傾けているとサラット・イスラリー(トマトやキュウリを刻んだサラダ)やファラフェル、シュワルマ、カバーブの皿が次々と運ばれてきてテーブルの上を埋め尽くしていく。皿から取って食べてもよし、ピタに挟み込むのもよし、すくい取って食べるもよし、イスラエル料理に気取りはない。香辛料も塩分も控えめ、おだやかで素材の味を生かした味なので旅行者でも馴染みやすい味だ。
ローシュ・ハ・ニクラはレバノンとの国境にある岬。波の侵食で奥深くまで洞穴が続き、神秘的な光景を見せてくれる。ターコイズブルーの水面が美しく、まさに映えスポット、あちらこちらでカップルや家族連れに写真を頼まれ、微笑ましい時間が続いた。洞窟を繋ぎ合わせた遊歩道内は白い岩にぶつかった波しぶきでミストサウナのよう。カラリと乾いた地中海沿いの陽気とまったく違う表情に驚かされる。
ワインは、ユダヤ教の聖典(日本では旧約聖書に当たる)にも出てくるイスラエルゆかりの飲み物。ローマ支配下でもキリスト教の成立以降も、ずっとこの地でワインが造られてきた。
オスマン朝支配下でワイン造りが禁じられた時代もあったが、ヨーロッパからの入植者がノウハウを持ち寄り、今では300を超えるブティック・ワイナリーがあるという。品質も年々評価が高くなり、いまや世界の注目を集めるほどだ。
ハイファの南東にあるキリヤット・ティヴォンKiryat Tivonにあるクファル・ティクヴァKfar Tikvaは直訳すると「希望の村」。発達障害などを抱える人が集団で生活し、自立を目指している。ロイ・イツハキーRoy Itzhaki氏は彼らに労働の場を提供し、生活基盤を持ってもらいながら高品質のワインを造り出そうと2003年にチューリップ・ワイナリーを設立した。
ワインのラベルに書かれた「WINE OF HOPE」の文字。ロイ氏の思いが伝わってくる。
希望の村では、現在240名ほどの人が生活を共にしながらワイン造りに関わっている。ロイさんにワイナリーの名の由来を尋ねると
「母がつけてくれたんですよ」という。
「ワインの名前を付けようと家族に相談したとき、母がチューリップ型のグラスを使っていたんです。すると『チューリップがいいわ。英語圏でなくても知っている言葉だし、それに花の話をしているときはみな笑顔になるから』って」
なんとも微笑ましいエピソードを語ってくれた。
ワイン・テイスティングを重ねていると声をかけられた。
「ワインはどうでしたか?」
以前ここに住み、一緒に生活していた人だという。
「素晴らしいです、日本人も好きな味ですよ」
そう答えると満面の笑みで喜びを表してくれた。彼は引退した今もスタッフの顔を見るために毎日足を運んでくるそうで、ここで訪れるお客さんと会話を交わすのを楽しみにしているそうだ。
「いいワインができることよりも彼らの笑顔が一番の喜びと生活の活力になっているんですよ」とロイさんが続ける。
「日本にも展示会で訪れたことがあります、うちのワインはコストコで買えるんですよ。帰国したらこの村を思いながらグラスを傾けてください」
木陰のテラスに乾いた心地よい風が抜けていく。ワインだけでなく、心温まる話に少し酔ったのかもしれない。
ガリラヤ湖はイエス伝道活動の中心となった土地。イエスは湖周辺の各所で病人を治したり、大勢の民衆にパンや魚を増やして与えたりしたという。穏やかにみえるガリラヤ湖でも、イエスは湖上を歩き、嵐をしずめたという。キリスト教徒はそういった奇跡が行われた場所や教会を巡礼し、イエスの生涯に思いを馳せるのだ。
イエス以前の時代から、ガリラヤ湖は貴重な水源だった。ローマ帝国時代にはティベリアス湖と呼ばれ、湖畔の町ティベリアにその名を残している。また湖の形が竪琴に似ていることから、ヘブライ語のキノール(竪琴)にちなみ、地元の人はキネレットと呼ぶことも。
イスラエルの水資源はガリラヤ湖とそこから流れるヨルダン川に頼る時代が長く、そのためガリラヤ湖の水位は大きく下がってしまった。その恩恵ではないが、1986年に湖底から紀元1世紀頃と推定される舟が見つけ出されている。イエスの活動していた時代に近い遺物の発見だ。その後、イスラエルでは海水淡水化の技術が進み、湖面は現状まで水位を戻しているという。
宿泊した湖畔のホテルは、1885年にスコットランド人のトレンス医師が建てた歴史ある病院。トレンスは宗教の違いにかかわらず診療し、人々から慕われていたという。ホテルのテラスに出てみた。ガリラヤ湖さえ霞んでしまう日差しのなか、鳳凰樹が赤く燃えるように咲き誇っていた。
文・写真:田中さとし
■第1回レポートはこちら→https://www.arukikata.co.jp/web/article/item/3003090/
■第3回レポートはこちら→https://www.arukikata.co.jp/web/article/item/3003244/
■第4回レポートはこちら→https://www.arukikata.co.jp/web/article/item/3003297/
■第5回レポートはこちら→https://www.arukikata.co.jp/web/article/item/3003371/
■第6回レポートはこちら→https://www.arukikata.co.jp/web/article/item/3003438/
イスラエルは、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、それぞれの聖地がある国です。国としては、75年前に建国したばかりの若い国ですが、その歴史は4000年以上も前にさかのぼります。日本では紛争に関するニュースばかりが目立って届きますが、実は世界中からの巡礼者をはじめ、一年中観光客が絶えない観光立国。海抜マイナス400mにある死海リゾートも注目を集めています。本書では、イスラエル各地の見どころはもちろん、パレスチナ自治区、エジプトの巡礼地やシナイ半島のリゾート、さらには日帰りで行けるヨルダンのペトラ遺跡の情報も紹介しています。イスラエルを安心・快適に楽しむ旅のテクニックも充実。
E05 地球の歩き方 イスラエル 2019~2020
中近東 アフリカ 地球の歩き方 海外
2018/10/10発売イスラエル。そこは新と旧、西と東が入り交じる不思議な国。聖なる地ならではの美しい風景、ここにだけ混在する文化の交差点へ!
イスラエル。そこは新と旧、西と東が入り交じる不思議な国。聖なる地ならではの美しい風景、ここにだけ混在する文化の交差点へ!
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(関連記事)https://www.arukikata.co.jp/web/catalog/article/travel-support/