ドラマ『VIVANT』で話題!モンゴル・ウランバートルの新空港近くに3万ヘクタール超えの大都市が誕生!?
2023.11.7
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独立行政法人 国際協力機構(JICA) 社会基盤部 都市・地域開発グループ第一チーム 中園 美羽 「地球の歩き方Web」愛読者の皆様、こんにちは! JICAの中園(なかぞの)と申します。第7回目の連載は、“旅行通”の皆様にとってもあまりなじみがないかもしれない「西バルカン」、そしてそこに位置するセルビアとボスニアについてご紹介したいと思います!
目次
欧州の南東部、トルコとイタリア、オーストリアなどに囲まれたバルカン半島の西側に位置するEUに属していない6ヵ国(アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ)を「西バルカン」と称しています。
これら西バルカンの北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの西バルカン5ヵ国は2001年に終結した旧ユーゴスラビア紛争によって民主化や市場経済化が遅れていました。アルバニアも1990年以降に長年続いた鎖国体制から対外開放政策に転じ、今は、いずれの国もEU加盟を目指し、国内改革や域内協力に取り組み、紛争後の復興から新たな経済成長へと力を増してきています。
「欧州最後のフロンティア」といわれるなど注目度も高まりつつあり、日本企業の進出も進んできています。
西バルカンには、美しいドナウ川やアドリア海に囲まれ、リゾート地としての魅力もあるほか、遺跡や景勝地などの観光資源も豊富です。
地域的に欧州との繋がりが強いですが、古代ギリシャ帝国、ローマ帝国、オスマン・トルコ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国など、数々の異なる王権に支配されてきたため、東西の文化が混在した独特の雰囲気や文化を感じることができます。
西バルカンではグルメ旅もおすすめです。スラブ圏や地中海・小アジア地域の影響が混じり合った、この地域ならではの食文化・料理が楽しめるほか、古代ギリシャ帝国時代から続くワイン造りも盛んで、それぞれの国の自生種を使ったワインも豊富にあります。
日本は第2次世界大戦後に東欧の中でも最初に旧ユーゴスラビアと外交関係を回復し、冷戦時代も対立関係はなく、長年よい関係が築かれてきました。特に、紛争終結直後からいち早く、欧州でもアメリカでもない「日本」が、西バルカンの国の再建に向けた支援を行ってきたことは現地でもよく知られています。
そんな日本とのつながりを持つ西バルカンにおいて、今回は特に、この国々の街の発展を支える「公共交通」の改善*に向けた話を紹介したいと思います。
ところで、日本に住んでいる私たちは、鉄道やバスといった公共交通が身近にあることを当たり前のように思うかもしれません。一方で、JICAが支援する開発途上国には公共交通が整備されている都市は多くなく、老若男女、すべての人が平等に利用できる移動手段としての公共交通は、活気のある街づくりや成長を続けるための街の機能としてとても重要なもので、その存在自体がSDGsに貢献するものと考えられています。
西バルカンにおいても、同じです。紛争によって社会基盤インフラは壊滅的な被害を受けましたが、その後、復興に向けての再建が始まりました。いまや、西バルカンの国々では、バスやトラム(路面電車)が市民や観光客の移動を支えるまでに復興しましたが、これからはEU加盟を目指す国として、公共交通インフラの近代化や交通セクターでの環境負荷の軽減が重要課題になっています。
そんななかで、西バルカンの街において、環境に優しく質の高い公共交通サービスの提供を進めていくにあたって、実はJICAを通じた日本の協力が一役買っているのです。
ここではいくつかの取り組みをご紹介します!
セルビアの首都ベオグラード。ヨーロッパの中でも最古の都市のひとつとして知られており、ドナウ川・サヴァ川の合流地点に位置します。
そんなベオグラード市内を歩くと、昨年末まで時々黄色いバスを見かけることがありました。このバスにはセルビアと日本の国旗がペイントされており、地元の方の中には “日本バス”、“黄色いバス” もしくはセルビア語で日本人を意味する “ヤパナッツ” と呼んでいる方もいるそうです。
実はこの “日本バス” は2003年に日本の無償資金協力で寄贈されたのです。1990年代の紛争による国際社会からの制裁を受け、当時のベオグラード市の公共交通は劣悪な状況でしたが、そのようななかで寄贈された93台の新品のバスにはセルビアの方々から感謝の念が示されました。
“日本バス” は、毎日清掃や点検が行われきれいにされてきたことから、清潔さや乗り心地のよさのため、ほかのバスを見送り、わざわざ “日本バス”を待つ人もいたというほど、市民の欠かせない足であったそうです。私自身も市内を歩いていると「セルビアの誇りだ」と呼び止められてバスを紹介してもらったこともありました。残念ながら、利用開始から20年が経過したことで、2023年末に運行が終了しましたが、今でも市民の記憶に残るバス、日本とセルビアの友好の印となっています。
2003年にバスが寄贈され、20年近く経過しましたが、JICAはベオグラード市でバスをはじめとした公共交通の運行改善を行う技術協力も行ってきました。ベオグラード市民の約半数が利用しているといわれるバスやトラム(路面電車)ですが、実は近年は十分な運賃収入が得られず、その持続性が課題となっています。
JICAのプロジェクトの一環では、適切に公共交通を利用してもらうために、観光客に向けた公共交通の乗り方や切符の購入方法を示したマップの作成や、小学校の子供たちに向けた自家用車から公共交通利用へ転換を進めることの社会的な効果を理解してもらうための交通教育なども行ってきました。
ベオグラード市は環境保全を市の重要課題と位置づけ、公共交通に関しても電気や天然ガスを利用したバス車両の採用を積極的に進めるなどの取り組みを進めています。最近では「Eco1」と呼ばれる電気バス、「ブラーバ」と呼ばれる電動カートなども市内で見られるようになりました。ぜひ現地に足を運んだ際にはチェックしてみてください。
同じく、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボにおいても、街の公共交通のサービスを高めるための計画づくりをJICAが支援しています。
サラエボは、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都で、日本の長崎市のような、川沿いに広がるコンパクトで丘陵に囲まれた街です。第1次世界大戦のきっかけにもなった「サラエボ事件」の現場としてその地名を聞いたことがある方もいるかもしれません。
サラエボも、バス・トラム(路面電車)・ミニバスといった多様な交通モードによってネットワークがつくられ、1日あたりの利用者数は約25万人ともいわれており、市民の生活基盤となっているのですが、その一方、各交通モードには行先の表示やアナウンスもなく、かつてはなんと路線図もないという……大変使いにくいものとなっていました。また、車両もほかの国々から提供された中古のバスやトラムが活用され、新車への更新もままならない状況でした。
JICAのプロジェクトのなかでは、路線図の作成をはじめとしたサービス向上のためのメニューや、車両の更新計画など、公共交通をより良くするための包括的な計画づくりを支援してきました。
これら計画づくりのなかで、観光客にとっても分かりやすい公共交通とするため、トラベルマップの作成やGoogle MAPなどでバス停の情報を確認できるようにするためのデータ整備の手法をレクチャーするなどの取り組みも行われてきました。
サラエボ中心部は周囲を丘陵に囲まれた東西に細長い地形であることから、汚染された大気が集中しやすく、大気質の改善が喫緊の課題と捉えられています。サラエボでも、JICAとともに作成したロードマップに基づき、環境に優しいトラム(路面電車)の拡充や電気バスの採用など、クリーンな公共交通を実現していくための取り組みが進んでいます。
さまざまな顔を併せ持つ西バルカン。ですが、2016年のJICA調査によると、当時の日本人の海外旅行者数1700万人のうち、バルカン地域を訪れたのはわずか2万人! だそうです。
西バルカンの街の多くは、レンタカーや危険なタクシー、バイクを使わずとも気軽に移動できる公共交通が整備されており、旅行しやすい街だと思います。次の目的地に西バルカンを選ばれる場合には、日本とのつながり、そして人々の移動を陰ながらに支える公共交通にも目を向け、ぜひ活用してみてください!
監修:地球の歩き方