コロンビアで知られざる湯滝を発見!豪快な野湯「セタキラの湯滝」
2024.4.1
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「世界の温泉の中でどこが一番いいですか?」。答えるのがとても難しい質問です。プライベート感あふれる豪華な宿が好きな人もいれば、静かに過ごせる湯治宿を好む人もいます。野趣あふれる露天風呂、成分の濃い濁り湯、素朴でひなびた共同浴場、家族でわいわい騒げるプールタイプの温泉など、温泉に何を求めるかは人それぞれです。今回紹介するトラントンゴ温泉は、全員とは言わないまでも、多くの人を満足させられる極上の温泉施設だと思います。どんな温泉なのか、何がすばらしいのかを紹介します。
目次
トラントンゴ温泉はメキシコのイダルゴ州にあります。成田空港からメキシコシティ空港までは、全日空とメキシコ航空の直行便が毎日運航しています。約12時間30分という長いフライト(往路)ですが、乗り換えはありませんし、アメリカのようにESTA(電子渡航認証)の事前申請も必要ありません。メキシコシティから温泉までは日帰りツアーを利用できますし、専用車をチャーターしたプライベートツアーも可能です。到着の翌朝、メキシコシティを出発すれば、3時間半で温泉に到着です。
トラントンゴはとにかく広大です。重要なのは、「グルタス・トラントンゴ」と「グロリア・トラントンゴ」というふたつの温泉施設の区別です。以下、何度も登場するので、記号付きで説明します。
グルタス(A)は、グルタス・エリア(A1、洞窟という意味)とパライソ・エリア(A2、楽園という意味)のふたつに分かれていて、前者はおもに洞窟温泉と川湯、後者はこちらの記事のトップ画像に使われている棚田風の露天風呂があります。両者は2kmほど離れていますが、入場チケットは共通です。一方、グロリア(B、栄光という意味)はグルタス(A1)から吊り橋を渡って歩いていけますが、別の施設で料金も別です。
インターネットで見つけた写真をもとに、「ここに行きたい」と思っても、施設が広く日帰りツアーでは立ち寄らない場所もあるため、「行けなかった」という残念な声を聞きます。例えば、棚田風露天風呂があるパライソ(A2)に行きたいのに、運転手に「グルタスへ」と伝えるとグルタスでも洞窟があるA1エリアに案内されるケースがあります。もちろん、到着しても棚田風呂は見つかりません。メキシコでは、日本語を話すドライバーは数が少なく料金も高額です。多くの場合は英語かスペイン語のドライバーのみですので、ミスコミュニケーションを防ぐには写真を見せて伝えるに限ります。
筆者は2014年と今年(2024年)の2度、トラントンゴを訪れましたので、最新の雰囲気も合わせて紹介します。もし行かれるときは、こちらの記事を参考に事前に行きたい場所をはっきりさせて、楽しんでください。
メキシコシティ空港から北へ2時間半ほどでイスミキルパンの町を通過します。ここから温泉までは施設のシャトルバスも運行されています。イスミキルパンを過ぎると次第に山の中の景色に変わります。その先、グルタス(A)とグロリア(B)への分岐があり、グロリアのみに行きたい人は左折します。グロリアはグルタス(A2)からもアクセスできるので、両方へ行きたい人も含め、多くの観光客は直進します。乾いた大地を走り続けると、水着を売る店、小規模なホテル、レストランなどがポツポツと現れ、多数の大型バスが停まっている場所を通過します。トラントンゴは谷底にあって、周囲の空き地が少ないため、ツアー客を温泉で降ろしたあと、バスはこの場所で帰りの時間まで待機しているのです。
ここから先は、ガードレールもないつづら折りの坂を一気に下っていきます。料金所でグルタスの入場料を支払い、右折してさらに坂を下ると、パライソ(A2)エリアに到着です。駐車場は坂の途中から川沿いまで、広範にわたって点在しています。車を離れる際、どこの駐車場に停めたのかを頭に入れるか、周辺の風景を撮影しておくことをおすすめします。というのは、トラントンゴ一帯はすべてスマホの圏外なのです(2024年現在も)。専用車をチャーターした際は、車のナンバーも控えた方がよいでしょう。そうでないと、帰りに車を探してさまよい続けるはめになるかもしれません。特に週末は車が多くて迷いやすいです。
施設のパンフレットでは、洞窟のあるエリア(本記事のA1)をグルタス、棚田風温泉があるエリア(同A2)をパライソという言葉で区別していますが、実際に訪れてみるとパライソという表記は見つかりません。パライソエリアは「ポサス・テルマルス(Pozas Termales)」という名前で呼ばれているようです。訳せば、「温泉プール」という味も素っ気もない名前です。急斜面の階段を下っていくと、崖から突き出すように半円形や長方形の温泉浴槽が並んでいます。なかには浴槽が空中に浮かんでいるように見えるものもあります。傾斜地に棚田状に設けられた露天風呂はすべて人工ですが、あまりにも美しい造形と景観に圧倒されます。
また、温泉は炭酸カルシウムを豊富に含むため、温泉が流れ落ちる斜面はこぶ状の析出物で覆われています。何十年か経てば、天然の石灰棚のような景観に発達するかもしれません。露天風呂の数は多いので、平日ならば貸切りでの利用も可能です。
なかでも美しいのが階段を下りてきて右手にあるエリアです。急斜面に石灰棚が並んでいて、ウェブや雑誌によく使われるアングルです。拙著「さあ、海外旅行で温泉へ行こう」の表紙にもこの写真を使いました。なお、このエリアに入ろうとすると、係員に手荷物をチェックされ、ペットボトルはすべて没収されます。入浴中にうっかりペットボトルを落とすと、下段の露天風呂の入浴客に当たって危ないというのが理由のようです。
いったん元の道まで上って右奥へ進むと、ウォータースライダーのついた広い温泉プールがあり、家族連れでにぎわっています。温泉好きな人はスルーして構いませんが、プール脇の壁面は茶色い石灰華で覆われ、見事でした。
つづいて、グルタスエリアに移動します。専用車なら、2.5kmほど奥へ車で走ればよいのですが、それ以外にもふたつの方法があります。ひとつは施設が運行しているシャトルバスを利用する方法です。もうひとつは、お金と勇気が必要ですが、安全ベルトとハーネスを装着して、ワイヤーロープにかけた滑車で滑り降りる方法(ジップライン)です。筆者はトライしませんでしたが、パライソ(A2)の方がグルタス(A1)より高地にあるので、パライソからグルタス方向のみ移動できるようです。
グルタスエリアに着いたら、右手に向かうと、ミルキーブルーの川が目に飛び込んできます。この広大な川そのものが温泉です。下流側はぬるく、30℃少しといった感じですが、上流へ進むと少しずつ温かくなり、35~37℃程度になります。暑くて乾燥したメキシコでは、ちょうどよい湯加減です。川の中でまったりと浸かる人、堰のような岩壁に寄りかかり気持ちよさそうに過ごす人など、人それぞれです。温泉は見た目と違いマイルドな泉質で、硫黄臭はほとんどありません。川原にはテントの花が咲き、仲間内でバーベキューを楽しむ家族を多く見かけました。
川湯を背に高台に向かうと、施設を貫く道へ戻ります。道の両側にはホテルやレストラン、売店、トイレなどが並んでいます。階段をひたすら上り、温泉の川を見下ろす道を進むと、グルタスの洞窟に到着です。筆者が十年前に訪れた時はなかったのですが、今はコインロッカーを備えた受付のような場所があり、タオルとスマホ以外は洞窟へ持ち込めません。係員に代金を支払い、コインロッカーに荷物を預けます。防水バッグにしまったパスポートを預けても大丈夫かどうか、ちょっと心配になりましたが、ほかに手段はありません。
洞窟の入り口は巨大な岩壁になっています。左手には岩壁内のトンネルへ進む道がありますが、温泉が目的なので正面の道を進みます。入り口では、岩壁から水が大量に滴っています。水のカーテンをくぐると、洞窟内はムワッとしていて、あちこちで雨のように温泉が降っています。最も奥の湯滝は特に強烈で、豪快な打たせ湯を楽しめます。膨大な量の温泉は轟音とともに滝の外へと流れていき、前に述べた川湯に混ざっていくのです。ほかでは体験できない貴重な洞窟温泉です。
グルタスは川の右岸にありますが、グロリアは左岸にあるため、つり橋を渡って行きます。
まったく別の施設なので、グルタスの地図には一切載っていません。洞窟に向かう階段を上る手前で、右手の道を進むとつり橋が見えてきます。100ペソ(約850円)を支払うと、紙のリストバンドを付けてくれます(現金しか使えません)。帰りはリストバンドを見せれば、グルタスに戻れます。
グロリアは急斜面に沿って、湯滝と露天風呂が点在しています。グルタスほど混んでいないので、静かな湯あみを楽しみたい人に向いています(それでも週末はそれなりに混んでいます)。次々と現れる露天風呂の中から好みの場所を見つけて浸かりましょう。また、川湯への降り口もあるので、グルタスと同じように川湯を楽しむことも可能です。
泊まりがけで楽しみたいという人向けに、グルタス・トラントンゴには4つのホテルがあります。ただ、事前の予約はできず、当日、早い者順に入室できるというシステムです。部屋数は十分にあるので、週末以外ならまず泊まれるそうです。いずれもシンプルなホテルで、コンクリートを打ちっぱなしの室内にベッドとトイレがあるだけという部屋が少なくありません。防音機能はほとんどないので、夜遅くまで入浴客や隣室の客が騒いでいるのが平気でないと、寝付けないかもしれません。とはいえ、朝早い静かな時間帯や、満点の星の下で露天風呂を楽しみたい場合は、エリア内の宿泊がおすすめです。
また、施設内には数多くのレストランがあります。値段やメニューはそれぞれ異なりますが、大半はメキシコ料理です。施設内にATMはなく、現金しか使えない店が大半です。事前にある程度の現金を用意した方がよいでしょう。
"Hotel la Gruta"、"Hotel Paraiso" など施設内には4つのホテルがあり、施設が一括して経営しています。通常のチェックイン時刻は15:30ですが、部屋が空いていれば8:00から利用できます。チェックアウトは正午で、支払いは現金のみです。
濁り湯マニアにはグルタスの川湯、野趣あふれる野湯が好きな人には洞窟の湯滝、絶景を眺めて浸かりたい人にはパライソエリアの石灰棚風露天風呂、家族連れで騒ぎたいなら大型の温泉プール、のんびりと静かに浸かりたいならグロリアエリアと、トラントンゴの選択肢は豊富です。日本からの直行便があるメキシコシティから車で3時間半と行きやすい温泉でもあり、多くの人におすすめできます。メキシコシティで1日の余裕があるならぜひ訪ねてほしい温泉です。ただ、屋根のない完全な露天風呂が多いですし、雨だと川も濁ってしまいます。できれば12~4月の乾季がおすすめです。
トラントンゴを始め、世界中から厳選した温泉を紹介する新刊「さあ、海外旅行で温泉へ行こう 親切ガイド 世界の名湯50選」が出版されましたので、ぜひご覧ください。
温泉名 | 住所 | URL | 備考 |
グルタス・トラントンゴ(Grutas Tolantongo) | Cardonal, Hidalgo, Mexico. | http://www.grutastolantongo.com.mx/ | イスミキルパンからのシャトルバス、マップ等の情報を含む |
グロリア・トラントンゴ(Gloria Tolantongo) | Cardonal, Hidalgo, Mexico. | https://lagloriatolantongo.com.mx/ | – |
監修:地球の歩き方