ドラマ『VIVANT』で話題!モンゴル・ウランバートルの新空港近くに3万ヘクタール超えの大都市が誕生!?
2023.11.7
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独立行政法人 国際協力機構(JICA)
社会基盤部 都市・地域開発グループ第一チーム 栗﨑 敬子
『ラオスにいったい何があるというんですか?』。村上春樹氏の紀行文集タイトルにもなった国、ラオス人民民主共和国。タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、中国の5ヵ国に囲まれ、面積約24万平方キロメートルの内陸国ラオスは、ラオ族をはじめとした約50の民族が暮らす仏教国です。今回はラオスの古都、ルアンパバーンにおけるJICAの取り組みをご紹介します。サバイディ!
目次
1965年、JICAの前身である海外技術協力事業団が初の「日本青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)」を派遣しました。ラオスはその初代協力隊(5名)を受け入れした国なのです。ラオスの協力隊は、戦乱や政変で派遣が一時中断された時期もありましたが、2024年7月現在28名の隊員が活動しており、これまでに1000人以上の隊員が派遣されています。
2002年以降、現役協力隊は毎年ラオス首相を表敬し(コロナ禍の一時期を除く)、代表者がラオス語で活動報告を行っています。こういった機会が継続していることは、ラオス政府の協力隊に対する大きな信頼の現れといえます。
約600年の歴史をもつルアンパバーン。伝統的な建築様式とヨーロッパ調のコロニアル建築様式が融合した町並みが残る中心部は、1995 年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。
四方を山に囲まれたルアンパバーンには、数多くの寺院が立ち並びます。
市内にある小高い丘の頂上、金色の仏塔(タートチョムシー)が目を引く、「プーシーの丘」。プーシーの丘に登るとルアンパバーンの町並みを一望することができます。夕暮れ時、メコン川に沈む夕日を見るため多くの人が訪れます。
少し足を延ばすと「クアンシーの滝」や「パークウーの洞窟」があります。緑豊かな森林の中にあるクアンシーの滝は、ラオス随一の美しさを誇るパワースポットといわれています。四千体を超えるという仏像が並ぶパークウーの洞窟まではボートの旅が楽しめます。
近隣にはラオスの地酒「ラオ・ラーオ(ラオは酒、ラーオはラオスの意)」が楽しめるサンハイ村があります。ラオ・ラーオはもち米を原料としており、泡盛のルーツともいわれています。またここで販売されている織物も目を楽しませてくれます。
日が暮れたらナイトマーケットに向かいましょう。ルアンパバーンの町中にあるメインストリートでは、毎晩200を超える露天商がひしめきます。伝統工芸品や布製品を中心に、たくさんの雑貨が販売されています。
ルアンパバーンはその美しい景観と文化遺産だけでなく、すばらしいコーヒーでも知られています。ルアンパバーンコーヒーの魅力について、JICAプロジェクトチーム(※)の一員、竹中 亮さん((株)片平エンジニアリング・インターナショナル)に教えてもらいました。
「ルアンパバーンにおける持続可能な都市開発・交通管理プロジェクト」の委託先である開発コンサルタントチーム。
「ラオスで栽培されるコーヒーは、特に南部地域のボラベン高原で生産されるものが有名です。高地特有の気候と肥沃な土壌が、風味豊かな高品質のアラビカ種とロブスタ種のコーヒーを育てます。
ルアンパバーンのコーヒーは、この豊かなアロマとバランスの取れた風味が特徴です。アラビカ種はその柔らかい酸味とフルーティーな香りが魅力で、ロブスタ種は濃厚なコクと苦味が楽しめます。世界遺産地区には大小いくつものすてきなカフェがあり、これらのコーヒーを堪能できる多彩なメニューが揃っています。ぜひ、あなたのお気に入りの1杯を見つけてください。
この街では、時間を忘れてのんびりと過ごす贅沢さがあります。風味豊かなコーヒーを片手に、ルアンパバーンの自然の豊かさと文化の深さをじっくりと味わいながら、心ゆくまでリラックスしてください。」
2021年12月、ラオス・中国高速鉄道が開通。世界遺産地区から東側約10kmのところに鉄道の新駅が完成しました。観光客の増加は喜ばしいことである一方、駅からルアンパバーン市内へ、観光客を運ぶ車両も増え、世界遺産地区内での路上駐車が目立つようになりました。
将来は、ルアンパバーンに到達する高速道路や、ルアンパバーン世界遺産地区周辺の経済特区(SEZ)開発など、大規模事業も計画されています。
鉄道の開業による来訪者の増加に加え、こうした大規模事業が進むことによって、今後ますますルアンパバーンへの人流、交通流の大幅な増加が予想されています。
欧米の旅行誌において訪れたい都市ランキングの上位に選ばれるルアンパバーンですが、人気の高まりとともに課題が顕在化するようになりました。例えば、ルアンパバーンの世界遺産地区に多くの観光客が集中したことで、排水やごみなどの環境問題や渋滞などの交通問題が深刻化し、地元で対応しきれなくなったのです。
ルアンパバーンの魅力が損なわれることのない持続的な発展を目指し、JICAは2015年から持続可能な都市開発に向けた協力を続けています。
2023年2月、ルアンパバーンの都市交通に関わる行政機関の計画策定能力および事業実施能力向上を目的とした「ルアンパバーンにおける持続可能な都市開発・交通管理プロジェクト」が始動しました。ルアンパバーン県庁や市役所の職員(ルアンパバーンの行政官たち)と一緒にルアンパバーンの交通まちづくり、持続可能な観光都市としての在り方を考えていきます。
世界遺産地区内で散見される路上駐車が景観の魅力を損なう、歩道の幅員不足や不連続性による歩きにくさ、公共交通がないこと、交通事故のリスクが高いことなど、問題が顕在化していますが、ルアンパバーンにはまだ将来の都市ビジョンや交通計画がなく、課題解決に向けての検討はこれからの状況にあります。
JICAはこれらの課題に対して、都市交通マスタープランの策定を行い、安全かつ便利な交通のための社会実験を検討し、路上駐車や渋滞の解消を目指すべく取り組んでいます。
プロジェクト開始当初、ルアンパバーンの行政官たちとルアンパバーン市内を歩き、まちの課題を話し合うワークショップを行いました。
「ルアンパバーンにおける持続可能な都市開発・交通管理プロジェクト」では2023年7月下旬から8月上旬にかけて、ラオス中央政府、ルアンパバーン県庁、市役所などの職員13名を日本に招き、日本の交通まちづくりを学ぶ研修を実施しました。地方視察として岐阜県高山市、白川村、富山県高岡市を訪問しました。
世界遺産地区、重要伝統的建造物群保存地区を有する日本の観光都市において、講義や視察を通じて、景観保全や歴史ある町並みを活かしたまちづくりや交通マネジメントに関する知見を深めることができました。研修の最終日にはルアンパバーン都市交通マスタープランの将来ビジョンや開発シナリオなどを検討することができました。
「伝統的な町並みと景観を楽しんでもらいたい」。これまでルアンパバーンは何度か流入規制に挑戦してきましたが、その規制が日常化されるまではまだまだ道のりは長く、解決しなければ課題が山積みです。
「路上駐車がなくなり、交通問題が解消されたルアンパバーンを見てみたい」。美しい景観を楽しみたいという想いは観光客だけでなく地元住民の願いでもあります。
2024年3月30日と31日の週末2日間、ルアンパバーン世界遺産地区の目抜き通り(シサワンウォン通り)の一定区間において車両流入を規制する社会実験を行いました。
社会実験の実施にあたっては、行政官たちとプロジェクトチームが多くの議論を重ね、規制区間や時間帯などについて入念に検討を行いました。社会実験には地元住民の協力も欠かせません。実施の前後では、ルアンパバーン住民向けの説明会も開催し、観光客だけでなく、そこで生活する人々とも意見交換を行いました。
当日は天候にも恵まれ、多くの観光客や住民が路上駐車のない、歩きやすく美しい世界遺産の空間を楽しむことができました。路上ではバトミントンをする住民の姿もありました。
アンケート調査では、流入規制の取り組みに賛同し、実施継続を望む声も多くありました。歩行者数が最大で50%増えたことも確認され、賑わいの創出にも貢献したことが分かりました。
社会実験での賑わいの創出には、行政官たちが研修で訪問した高山市などで見聞きした体験がヒントになっているそうです。「ルアンパバーンと日本の絆を感じます。」と行政官たちと高山市を訪れたJICAプロジェクトチーム業務主任の渡辺雅人さん((株)片平エンジニアリング・インターナショナル)が話してくれました。
JICAは行政官たちやプロジェクトチームとルアンパバーンの将来像を共有し、「持続可能な観光都市ルアンパバーン」として発展することを目指しています。
ルアンパバーンが誇る世界遺産の景観を守り、快適な都市空間を創造するためには、都市と交通が一体となった計画が重要です。そしてその実現に向けて、日本の知見を生かしたプロジェクトが動いています。ラオス・ルアンパバーンを訪れる際には、ぜひ今回ご紹介したまちづくりの観点からも町並みを眺めてみてください。
トップ画像:©iStock
監修:地球の歩き方