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『地球の歩き方 静岡』が2025年8月に発行決定!
2024.12.9
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淡麗でおだやかなうま味があり、特に静岡県の食材のおいしさを引き立てる「食中酒」として全国で高い評価を受けている静岡県の地酒。2023年11月には地域ブランドを保護する国の地理的表示(GI)制度に指定され、今後は国内外への発信が進むことが期待されます。地酒(日本酒)の出荷量のうち「特定名称酒」呼ばれる高級酒の比率が高く、吟醸・純米吟醸酒の割合が高いことから「吟醸王国」とも呼ばれる静岡。そんな静岡の「うまい酒」が生まれる場所や楽しめるスポットを求めて、静岡県の沼津市と富士宮市を巡りました。
まずは静岡県のお酒について学ぶために、日本酒の品質向上に取り組んでいる県の研究機関を特別に見学させていただきました。「静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センター」の主任研究員・鈴木雅博さんによると静岡県の酒造会社は現在27社あるそう。ちなみにそのほとんどが、古くからの流通網が整備された東海道沿いにあるのだとか。静岡の歴史と酒造りは密接にかかわり、昔から酒造りが盛んに行われてきたことがわかりました。
気候が温暖な静岡の環境は、酒造りには適していないといわれてきました。それにもかわらず静岡のお酒がおいしいといわれるのは理由がたくさんあります。そのなかでも大きな理由は4つ。
①酒造りに適したミネラルをほどよく含んだ、富士山や大井川の伏流水など水資源が豊富
②静岡県オリジナルの「令和誉富士」などの酒米を使用している
③越後などから技術力の高い杜氏たちを迎え入れ、高い技術を競い合ってきた
④昭和50 年代に開発された県オリジナルの清酒酵母「静岡酵母」を、県内の多くの酒蔵が使用していること。
この①~④が挙げられます。
④の「静岡酵母」は、こちらの「静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センター」と「静岡県酒造組合」とで共同研究によって開発された静岡県オリジナルの清酒酵母。実際に酵母の香りをかいでみると、フルーツのような上品かつ穏やかな香りが感じられました。静岡県はマグロやカツオなど、うま味成分が多い魚が多く取れるため、あっさりした酒が合うのではと考え、そんな静岡の食材に合う酒になるように酵母を設計しているのだとか。「静岡酵母」はすでに7種類の酵母が開発、実用化されていますが、現在も新たな酵母の研究・開発に取り組んでいるのだそうです。
県を挙げて、静岡の酒造りの研究・開発に力を入れて、取り組んでいるということが、鈴木さんの熱量あふれる説明やセンターの充実した施設から伝わってきました。
県の施設で学んだあとは実際に酒造りが行われている場所を訪れてみました。まず訪れたのは1743年から酒造りを行っている富士宮市の「牧野酒造」。富士山の伏流水を仕込みに使い、酒米をすべて手洗いで処理するなど、今も伝統的な手法を守っています。蔵元の牧野利一さんによると、牧野酒造周辺は酒に適したお米が取れ、伏流水が豊富、冬は冷たい環境でお酒の発酵を抑えることができる酒造りに適した環境なのだとか。
敷地内に入らせていただくと、重要建造物指定の建物が立ち並び、酒蔵の長い歴史を感じさせます。特に目を引いたのが黒くて長い煙突。この煙突で湯を沸かした蒸気で、精米・洗米・浸漬させたお米を蒸すとのことです。その後、蒸したお米は放冷させ、製麹といって麹菌を繁殖させます。そして酒母室という冷暗所で水、蒸米、麹米、酵母を混ぜて酒母と呼ばれるお酒のもとの繁殖を待ち、1~2週間ほどたったあと、仕込みタンクにその酒母を入れ、蒸米、麹、水を入れてアルコール発酵をさせたあと絞って、日本酒が完成となります。このように酒造りの工程を見ても、水が多く使われることがわかります。日本酒の成分の約8割が水ということもあり、水はとても重要。そのため富士山の伏流水など、水の恵みがかなり大切になります。
酒蔵での説明後、屋上に出ると、美しく冠雪した富士山が姿を現しました。牧野さんによると富士山の中腹のほうまで雪が積もり、日本神話でもっとも美しいとされる富士山ゆかりの女神・コノハナサクヤヒメの姿に見えると雪が豊富=水が豊富=酒米が豊作になる=いい酒ができると昔からいわれているそう。目を凝らしてみるとなんとなくコノハナサクヤヒメのように見え(!)、今年の豊作を確信せずにはいられませんでした。
売店ではすっきりとした味わいが人気の「富士山」や蔵人が晩酌で毎晩飲んでるという「白糸」をはじめ、さまざまなお酒やおつまみを購入することができます。
続いて訪れたのは、「牧野酒造」から1.5kmほどの場所にある、元禄時代創業の「富士錦酒造」。もともとは広大な敷地で農業を行っていた農家で、お酒は小作人やお祭りのためにほんの少し醸造する程度だったそう。現在、農地の範囲は縮小したものの、その歴史や環境を生かして、米作りからお酒造りを手掛けています。
代表の清信一さんに昭和2年に建てられたという100年近い酒蔵を案内していただきました。清さんはもともと神奈川県横浜市で暮らすサラリーマンでしたが、勤務中に奥さまの実家である富士錦酒造の跡継ぎとして活躍されていた義兄を交通事故で亡くします。そして酒蔵を継ぐために東京の会社を辞め、東京農業大学醸造科に入学、富士錦酒造株式会社へ入ったという経歴をおもちの方。優しく落ち着いたご説明のなかに、独特のユーモアと知識を交え、見学中も参加者の笑いと驚きが絶えません。
酒造りに関しても、伝統を守りながら、常に革新を続けているとのこと。雑味がなく飲みやすいといわれる「富士錦」が人気ですが、売店では日本酒はもちろん、フルーツワインや焼酎、甘酒や吟醸酒ケーキなども販売し、さまざまな角度から静岡の革新的な酒造りに触れることができます。
食中酒として静岡の食材に合うとされる静岡の酒。日本酒と料理との相性を試しに富士宮市にある「居酒屋 和光」を訪れました。昼はカフェ営業、夜は居酒屋として地元の人々に愛されているお店です。
旬の食材や地元の食材を活かした料理が人気で、もちろん上で紹介した牧野酒造や富士錦酒造など、地元の酒蔵のお酒もスタンバイ。この日頂いたのはニジマスのお刺身と富士宮の根原地域で取れるブランド大根「根原大根」の煮物、シラスと桜エビのピザなど。
ニジマスはふたつの部位に分けて刺身として提供されており、同じニジマスでも背中の部位がさっぱりしているので、お酒の香りを楽しめるような本醸造のお酒(牧野酒造の「富士の巻狩り」など)がぴったり。逆にニジマスのおなかのほうはうま味が強いので、地元・富士宮市の富士正酒造の「辛口純米げんこつ」がとても合うとのこと。温かい煮物には熱いお酒の相性がよいそうで、大根の煮物には燗もおすすめ。ピザには静岡の海鮮がトッピングされているので、静岡の酒が絶妙に合い、和洋の融合も楽しめました。
静岡の自然の恵みを感じて、日本の歴史や技術を学ぶことができる静岡の酒蔵。何より「静岡のお酒と食事はうまい!」ということを再確認できました。お酒が好きな方は、次の静岡旅のテーマを日本酒とするのはいかがでしょうか? 静岡県のお酒の魅力は2025年8月に発行予定の「地球の歩き方 静岡」にも掲載予定です。お楽しみに。
PHOTO:地球の歩き方編集室